僕と×××(黒木庄左ヱ門)
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その日の午後、自由な時間を見つけると庄左ヱ門は食堂へ向かった。
椿に会って聞きたいことが沢山あったのだ。
庄左ヱ門が先日土井に告げたことは本心だった。
利吉や六年生、それに三郎。
誰もが椿と肩を並べるに相応しい条件を満たしている。
だが群を抜いて、庄左ヱ門は土井が好敵手だと思っていた。
土井の口から直接聞けなかったのは残念だが山田にもわかる程、土井の気持ちは椿に向かっている証拠となる。
それらを踏まえた上で、自分はどうするべきか考えたのだ。
食堂が目に入ると、椿はそこにいた。
彼女は食堂の外で今しがた届いたと見られる野菜の束を手に、勝手口より中へ入って行く。
庄左ヱ門はその姿を見ると駆け寄って彼女に話しかけた。
「椿さん。」
「あ、庄左ヱ門君。」
椿は庄左ヱ門を見るといつもの笑顔を見せる。
「すみません、お仕事中でしたか?」
「ううん、大丈夫。もう終わりだから。どうかしたの?」
「あの、少し僕に付き合って頂けますか?話したいことがあります。」
椿は庄左ヱ門の申し出を快く引き受け、食堂のおばちゃんに一言告げると庄左ヱ門について歩く。
学園の中にある大きな一本の松の木、その下に丁度腰を掛けられる石がある。
そのすぐ脇には小さな池があり、数匹の鯉が我が物顔で泳いでいる。
生徒たちの憩いの場、そう呼ぶに相応しい場所だ。
庄左ヱ門はそこに椿を案内すると、その腰掛け石の上を手で払い、どうぞと言って彼女を先に座らせた。
椿は庄左ヱ門の気遣いにくすぐったさを感じながら、一言礼を言って座る。
庄左ヱ門も彼女の隣に腰かけた。
「それで、話ってなにかな?」
「はい、いくつか質問があるので答えて頂きたいのですが。」
「うん、私でわかることならいいよ。」
椿は少しワクワクしていた。
庄左ヱ門とこのように二人で話をしたことはなかったからだ。
物事を冷静に考えることができ、一年は組の中でも頼りにされることが多い庄左ヱ門。
一体どんな質問が飛んでくるのか、想像もつかない。
「ではまず、椿さん。今、恋人はいますか?」
「………え?」
まさかの言葉に声を失う。
なぜ、どうして、どういうこと?
椿の頭の中は混乱で満ちる。
「……こ、恋人?」
「はい、いらっしゃるのですか?」
庄左ヱ門の顔は至って真剣で、椿は妙な緊張が背中を流れるのを感じる。
「えっ…と、恋人と呼べる人は……いないよ?」
「そうですか。では続いて、そういう間柄になりたいと思える人はいますか?」
「え、えぇ?」
「つまり、好いている人ということです。」
「それは……まだ考えてないかな。」
「成る程。ではそれを考えた際に、歳は関係ありますか?」
「んー、特に関係ないと思うけど…私弟がいるから、あまり下だと弟みたいに思っちゃうかな。」
「…そうですか。恋人に求める条件などはありますか?例えば容姿がいいとか、収入が多いとか。」
「えーと……そういうのはないかな。私を想ってくれるなら……」
椿はそこまで言いかけてはっと気づく。
目の前にいる十歳の男の子相手に、自分は何を口走ったのかと。
急激に恥ずかしさがこみ上げてくる。
「じゃあ…」
「ちょ、ちょっと待って庄左ヱ門君。」
「はい。」
「なんでそんなこと聞くの?誰かに……あ、わかった!三郎君だね?三郎君に言われたんでしょ?」
三郎と庄左ヱ門は確か同じ委員会だったと思い、彼が指示を出しているのではと勘ぐった。
しかし庄左ヱ門は表情を崩すことなく、至極冷静に否定する。
「いえ違います。鉢屋先輩は関係ありません。」
「じゃあ誰が…?」
「椿さん、誰かに頼まれたわけではなく僕が聞きたいと思ったのです。」
「え、本当に?どうして?」
庄左ヱ門は一瞬目線を反らしたが、再び椿に目を向ける。
「この際だからはっきりと言います。僕は椿さんに惹かれています。だからあなたのことをもっと知りたい、そう思いました。」
庄左ヱ門の告白に椿は思考が止まる。
庄左ヱ門君が……私を……?
「えっ………えぇ!?」
「僕がそう思っていてはご迷惑ですか?」
庄左ヱ門は悲しそうな顔をする。
その表情に椿は思わず否定をする。
「や、違っ、迷惑だなんて思わないけど…」
「そうですか。それは良かったです。」
「だけど、庄左ヱ門君から見たら…私なんて七つも年上のおばさんじゃない?」
「それは違います!」
庄左ヱ門は声を荒らげた。
椿はその様子にたじろぐ。
「…驚かしてすみません。でもそれは違います。椿さんから見たら確かに僕は子供かも知れません。ですが、僕にとって椿さんはとても魅力的な一人の女性です。」
「庄左ヱ門君……」
「あなたに出会って僕は、なんでもっと早く生まれてこなかったのか、恨んだこともあります。この歳の差はどう足掻いても埋めることは決してできません。だから少しでも、あなたの理想に近づきたい。大人になった時にあなたに釣り合う男になりたい。そう、思っています。」
椿は庄左ヱ門に何と声をかけたらいいのか、わからなくなる。
彼は十歳の男の子、だけど考え方は大人で七つ下という事実を見失わさせる。
「ですが、僕が大人になるまで待って欲しいとは言いません。椿さんの人生は椿さんのものです。僕は勝手にあなたを追いかけさせて貰います。いつかあなたに相応しい男になった時に、あなたの隣に立たせてください。その隣が、空いていたなら…」
庄左ヱ門の瞳は真剣で、とても澄んでいる。
少し熱を帯びたようにも見えるその表情に、椿は不覚にも心が揺さぶられた。
決して椿を縛り付けることのないその言葉は、彼女に負担をかけない庄左ヱ門なりの優しさだ。
「……そこまで考えてくれていたんだ。正直本当にびっくりしてるよ。ありがとう、庄左ヱ門君。」
庄左ヱ門に向かって笑顔を見せると、彼も笑顔を返してくる。
「ありがとうございます、椿さん。じゃあ質問を続けてもよろしいですか?」
「ふふ、はい。」
その後、庄左ヱ門の質問は椿の休憩時間いっぱいにまで及んだ。
椿に戸惑いがないと言えば嘘になる。
ただ彼女はぶつけられた小さな想いを、突き放すことはできなかった。
「もうそろそろ行かないと…」
「あ…すみません。休憩時間を潰してしまいました。」
「大丈夫だよ。庄左ヱ門君と話せて嬉しかったから。」
「本当ですか?」
「うん。じゃあまたね。」
その場を離れようとする椿を庄左ヱ門が呼び止める。
「椿さん!」
「?」
「色々言ってしまいましたが、僕はあなたの幸せを願っています。もし僕の言ったことが椿さんの足枷になるようなら忘れてください。これからも、今までと変わらない関係でいて欲しいから。今日はありがとうございました。とても楽しかったです。」
椿は庄左ヱ門に笑顔で答える。
庄左ヱ門はそれを見ると、お辞儀をしてその場から走り去った。
今はまだはっきりと答えが出せない。
ただこの出来事が椿の心に深く刻まれたのは、確かなことだった。
椿に会って聞きたいことが沢山あったのだ。
庄左ヱ門が先日土井に告げたことは本心だった。
利吉や六年生、それに三郎。
誰もが椿と肩を並べるに相応しい条件を満たしている。
だが群を抜いて、庄左ヱ門は土井が好敵手だと思っていた。
土井の口から直接聞けなかったのは残念だが山田にもわかる程、土井の気持ちは椿に向かっている証拠となる。
それらを踏まえた上で、自分はどうするべきか考えたのだ。
食堂が目に入ると、椿はそこにいた。
彼女は食堂の外で今しがた届いたと見られる野菜の束を手に、勝手口より中へ入って行く。
庄左ヱ門はその姿を見ると駆け寄って彼女に話しかけた。
「椿さん。」
「あ、庄左ヱ門君。」
椿は庄左ヱ門を見るといつもの笑顔を見せる。
「すみません、お仕事中でしたか?」
「ううん、大丈夫。もう終わりだから。どうかしたの?」
「あの、少し僕に付き合って頂けますか?話したいことがあります。」
椿は庄左ヱ門の申し出を快く引き受け、食堂のおばちゃんに一言告げると庄左ヱ門について歩く。
学園の中にある大きな一本の松の木、その下に丁度腰を掛けられる石がある。
そのすぐ脇には小さな池があり、数匹の鯉が我が物顔で泳いでいる。
生徒たちの憩いの場、そう呼ぶに相応しい場所だ。
庄左ヱ門はそこに椿を案内すると、その腰掛け石の上を手で払い、どうぞと言って彼女を先に座らせた。
椿は庄左ヱ門の気遣いにくすぐったさを感じながら、一言礼を言って座る。
庄左ヱ門も彼女の隣に腰かけた。
「それで、話ってなにかな?」
「はい、いくつか質問があるので答えて頂きたいのですが。」
「うん、私でわかることならいいよ。」
椿は少しワクワクしていた。
庄左ヱ門とこのように二人で話をしたことはなかったからだ。
物事を冷静に考えることができ、一年は組の中でも頼りにされることが多い庄左ヱ門。
一体どんな質問が飛んでくるのか、想像もつかない。
「ではまず、椿さん。今、恋人はいますか?」
「………え?」
まさかの言葉に声を失う。
なぜ、どうして、どういうこと?
椿の頭の中は混乱で満ちる。
「……こ、恋人?」
「はい、いらっしゃるのですか?」
庄左ヱ門の顔は至って真剣で、椿は妙な緊張が背中を流れるのを感じる。
「えっ…と、恋人と呼べる人は……いないよ?」
「そうですか。では続いて、そういう間柄になりたいと思える人はいますか?」
「え、えぇ?」
「つまり、好いている人ということです。」
「それは……まだ考えてないかな。」
「成る程。ではそれを考えた際に、歳は関係ありますか?」
「んー、特に関係ないと思うけど…私弟がいるから、あまり下だと弟みたいに思っちゃうかな。」
「…そうですか。恋人に求める条件などはありますか?例えば容姿がいいとか、収入が多いとか。」
「えーと……そういうのはないかな。私を想ってくれるなら……」
椿はそこまで言いかけてはっと気づく。
目の前にいる十歳の男の子相手に、自分は何を口走ったのかと。
急激に恥ずかしさがこみ上げてくる。
「じゃあ…」
「ちょ、ちょっと待って庄左ヱ門君。」
「はい。」
「なんでそんなこと聞くの?誰かに……あ、わかった!三郎君だね?三郎君に言われたんでしょ?」
三郎と庄左ヱ門は確か同じ委員会だったと思い、彼が指示を出しているのではと勘ぐった。
しかし庄左ヱ門は表情を崩すことなく、至極冷静に否定する。
「いえ違います。鉢屋先輩は関係ありません。」
「じゃあ誰が…?」
「椿さん、誰かに頼まれたわけではなく僕が聞きたいと思ったのです。」
「え、本当に?どうして?」
庄左ヱ門は一瞬目線を反らしたが、再び椿に目を向ける。
「この際だからはっきりと言います。僕は椿さんに惹かれています。だからあなたのことをもっと知りたい、そう思いました。」
庄左ヱ門の告白に椿は思考が止まる。
庄左ヱ門君が……私を……?
「えっ………えぇ!?」
「僕がそう思っていてはご迷惑ですか?」
庄左ヱ門は悲しそうな顔をする。
その表情に椿は思わず否定をする。
「や、違っ、迷惑だなんて思わないけど…」
「そうですか。それは良かったです。」
「だけど、庄左ヱ門君から見たら…私なんて七つも年上のおばさんじゃない?」
「それは違います!」
庄左ヱ門は声を荒らげた。
椿はその様子にたじろぐ。
「…驚かしてすみません。でもそれは違います。椿さんから見たら確かに僕は子供かも知れません。ですが、僕にとって椿さんはとても魅力的な一人の女性です。」
「庄左ヱ門君……」
「あなたに出会って僕は、なんでもっと早く生まれてこなかったのか、恨んだこともあります。この歳の差はどう足掻いても埋めることは決してできません。だから少しでも、あなたの理想に近づきたい。大人になった時にあなたに釣り合う男になりたい。そう、思っています。」
椿は庄左ヱ門に何と声をかけたらいいのか、わからなくなる。
彼は十歳の男の子、だけど考え方は大人で七つ下という事実を見失わさせる。
「ですが、僕が大人になるまで待って欲しいとは言いません。椿さんの人生は椿さんのものです。僕は勝手にあなたを追いかけさせて貰います。いつかあなたに相応しい男になった時に、あなたの隣に立たせてください。その隣が、空いていたなら…」
庄左ヱ門の瞳は真剣で、とても澄んでいる。
少し熱を帯びたようにも見えるその表情に、椿は不覚にも心が揺さぶられた。
決して椿を縛り付けることのないその言葉は、彼女に負担をかけない庄左ヱ門なりの優しさだ。
「……そこまで考えてくれていたんだ。正直本当にびっくりしてるよ。ありがとう、庄左ヱ門君。」
庄左ヱ門に向かって笑顔を見せると、彼も笑顔を返してくる。
「ありがとうございます、椿さん。じゃあ質問を続けてもよろしいですか?」
「ふふ、はい。」
その後、庄左ヱ門の質問は椿の休憩時間いっぱいにまで及んだ。
椿に戸惑いがないと言えば嘘になる。
ただ彼女はぶつけられた小さな想いを、突き放すことはできなかった。
「もうそろそろ行かないと…」
「あ…すみません。休憩時間を潰してしまいました。」
「大丈夫だよ。庄左ヱ門君と話せて嬉しかったから。」
「本当ですか?」
「うん。じゃあまたね。」
その場を離れようとする椿を庄左ヱ門が呼び止める。
「椿さん!」
「?」
「色々言ってしまいましたが、僕はあなたの幸せを願っています。もし僕の言ったことが椿さんの足枷になるようなら忘れてください。これからも、今までと変わらない関係でいて欲しいから。今日はありがとうございました。とても楽しかったです。」
椿は庄左ヱ門に笑顔で答える。
庄左ヱ門はそれを見ると、お辞儀をしてその場から走り去った。
今はまだはっきりと答えが出せない。
ただこの出来事が椿の心に深く刻まれたのは、確かなことだった。