一章
あなたのお名前は?
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太陽の光が部屋の中へ侵入してくる。
すっかり日の出と共に目覚める癖がついているので、早起きは苦ではなかった。
身支度をして食堂へ向かうと、おばちゃんから何かを手渡された。
「おばちゃん、これは?」
「昨日ね、あったはずだなーと思って探したのよ。そしたらあったの、エプロン。良かったら使ってね。」
もらったエプロンを広げてみる。
たくさんのフリフリがついた白いエプロン。
おばちゃんのお古なんだろうか、それでも気持ちはすごく嬉しかった。
「ありがとう、おばちゃん!大切に使わせてもらいますね。」
おばちゃんと二人で朝食の準備をする。
すると、廊下を走ってくる足音が聞こえる。
もう誰か来たのだろうか、まだ時間は早い。
「おおーー!!いたーー!!」
駆け込んできた人物に指を差され、びくっと肩を震わせる。
六年生で一番元気な彼だった。
「おい、いたぞ!!文次郎!!」
「小平太!そんなに騒ぐな!驚いているじゃないか。」
続いて入ってきた人物も、昨夜見た顔だった。
「私は七松小平太だ。こっちの渋い顔は潮江文次郎。なぁ、名前何て言うんだ?」
「渋いって言うな!!」
小平太は文次郎の言葉など、まるでお構い無しの様子。
椿は二人のやり取りに笑みがこぼれる。
「私は竹森椿。よろしくね。」
「椿か!なぁ、今日後で時間あるか?迎えにくるからな!」
椿の答えを待たずして、小平太は文次郎と続々現れた六年生に引っ張られて行った。
「小平太、椿さんに何するつもり?」
「秘密だ!だがとてもいいことだ!」
「モソ…小平太のいいことは大抵良くない。」
「ああ、そうだな。」
小平太が振り返り椿と目が合うと、二人は笑顔で手を振りあった。
「…なんか気に食わん。」
「おはよう、椿さん。」
「おはよう雷蔵君。みんなも、早いんだね。」
やってきた五年生と朝の挨拶を交わす。
一人足りない気がするけど、気のせいかな?
「朝から椿さんに会えると思うと、いてもたってもいられなくてね。それにそのエプロン姿…」
注目を浴び、気恥ずかしい感じがした。
「え、これ?」
「うん、かわいい。」
声のトーンを落とし、ふっと笑う雷蔵の顔に椿の顔が熱くなる。
「あれ、照れてる?」
「…!もう、年上をからかうんじゃありません!」
ぷいっと頬を膨らませそっぽを向く椿に対して、怒っても効果ないんだけどなとその場の一同は思った。
「はは、ごめんごめん。」
椿から受け取った朝食を手にし、離れようとして足を止める。
「ちなみに、雷蔵だったらこんなことしないと思うよ。」
「え?」
遅れてやってくるもう一人の同じ顔。
人の良さそうな彼が本物の雷蔵だった。
なんだか化かされた気分だ。
「…三郎君ね…」
「え、見分けがつかない?不破先輩と鉢屋先輩の?」
「でもそれは、俺たちでもわからないっスよ。」
「先輩たち、いつも二人でいるもんね。」
乱太郎、きり丸、しんべぇに相談するも、この解答だった。
「そうなんだ~。私が忍者じゃないからわからないのかと思っちゃった。でもさ、誰だって名前を間違えて呼ばれたら嫌だよね…」
ため息をふーっと吐く。
乱太郎たち三人は、顔を見合わせて笑った。
「椿さん、あまり悩まなくてもいいと思いますよ。」
「そうそう、結局鉢屋先輩だって相手の反応見て楽しんでるみたいだし。」
「そうですよ。先輩は悪戯好きなんです。それより僕、気になってることがあるんだけど。」
「なーに?しんべぇ。」
「椿さん、食堂のおばちゃん見習いってことは、いつかは食堂のおばちゃんになっちゃうの?食堂のおばちゃんが二人になっちゃうの?」
「しんべぇ!せめて食堂のお姉さんでしょ!椿さん、悪気はないんです。」
「しんべぇは素直すぎなんです、すんません。」
乱太郎、きり丸がフォローに回る。
椿はうーんと考えていたが、真剣な面持ちで机をバンっと叩く。
「しんべぇ君!」
「は、はい…!」
「どうしよう、私食堂のおばちゃんになるのかな?おばちゃん二人だと混乱しちゃうよね?」
乱太郎、きり丸はその場でズッコケた。
「あら、冗談よ。ふふふ。」
少し三郎の気持ちがわかった気がした。
食堂の仕事は楽しいが、やはり大変なものだった。
学園全員分の食事の準備、それに片付けもある。
合間に少しの空き時間はあるが、一日のほとんどは食堂に缶詰めである。
食堂のおばちゃんは椿の働きぶりを喜んでくれた。
「でも休める時に休まなきゃダメ。元気が基本よ。」
そう言われて解放されたランチの片付けの後、外に出て固まった体をうーんと伸ばす。
空は蒼く今日も日射しが暖かい。
散歩してみようかな、昨日土井に案内してもらった忍たまの学舎のほうへ足を運ぶ。
ここで皆は立派な忍者になるために勉学に励んでいるんだ。
いいなぁ。
もし生まれた先が違ったら、自分も他の子供と一緒に学校に通えただろうか。
友達を作り、勉強や遊びを共にすることができただろうか。
しかし運命を悔やむわけではない。
今は学園長から与えられたこの生活を大事にしようと思う。
そうして歩いていると、地面に這いつくばっている集団を見つける。
「八左ヱ門君?何してるの?」
「あ、椿さん!動かないで!今ミーちゃんを探してて…」
「ミーちゃん?」
猫でも探してるのかな?
でもなんで皆地面を見ているの?
疑問に思っていると、突然手をぐっと引かれた。
「こんなとこにいたのか!探したぞ!」
さぁ行こうと問答無用で引っ張るのは小平太。
そういえば朝用事があるようなこと言ってた。
「ちょっと!そんなに早く走れなっ…!」
プチッ
何かを踏んだ音がした。
後ろを見ると泣き叫ぶ八左ヱ門たち。
椿は全く訳がわからないまま、小平太に連れ去られることになった。
「……で?」
「バレーをやろう!」
「やろう!」
小平太に無理矢理連れて来られた椿は彼が発した言葉がとても魅力的に聞こえた。
キラキラした笑顔の小平太と椿。
それに引き換え暗い顔でため息をつく六年生一同。
「でもバレーってどうやるの?」
「なんだ、知らないのか。要はこのボールの打ち合いだ。長次!」
小平太はボールを高く投げる。
それを長次がトスで上げた。
「いけいけどんどーん!」
小平太が飛び上がりボールを打ち込む。
とっさのことで身動き取れない椿の前に現れたのは留三郎。
目がつり上がっている。
「バカか、小平太!!死ぬだろうが!!」
留三郎がボールを受け返す。
椿は子供のようにはしゃいだ。
「すごーい!もう一回!」
「アホか!!あんなの取れるはずないだろ!!」
調子に乗った小平太がリクエストに答え、再度アタック。
次に出てきたのは文次郎。
「バカタレ!よそ見してる場合か!」
「あ?誰がバカだと!俺はこいつが怪我しないようにだな!」
「ちゃっかりバレーに参加してるじゃないか!すぐにやめろ!」
「そういうお前も打ち返してんじゃねぇよ!」
「もう!二人ともボール回してよー!」
留三郎と文次郎が言い争いを始めると、椿は無謀にも間に入ろうとする。
「椿さん!」
伊作がボールを回してくれる。
椿は見よう見まねで返した。
「そう、うまい!また返してみて!」
椿は楽しそうに伊作とラリーを続けた。
レシーブ、トス、アタックと伊作が優しく教えてくれるので、椿はバレーの遊び方を理解することができた。
楽しい!
友達と遊ぶって、きっとこんな感じなんだ!
「ずるいぞ、伊作!私にも回せー!」
「なかなかやるな。」
輪から外れて見ていた仙蔵が、私も混ぜろと中に入ってくる。
七人はしばらくの間ボールを回し続けた。
「はぁ、はぁ、もうダメ~」
椿はその場に座り込んだ。
だが、その表情は満足感に溢れている。
「ったく、大丈夫かよ?」
「なぁ、楽しいだろ!」
うん、と肯定する。
息を整えようとして空を見上げる。
相変わらずの青い空に雲が静かに流れていった。
「ねぇ!」
椿が立ち上がり、六人が彼女に視線を集める。
「今から"さん"付け禁止。敬語もダメ。私も皆のこと普通に呼びたいから。いいでしょ、はい決定ー!」
「はぁ?」
「なんだ、私は最初からそうしてるぞ。」
「モソ…別に構わない。」
「留三郎なんて"こいつ"って言ってたしなぁ。」
「あれは!言葉のあやってやつでだな!」
「まあまあ、いいんじゃない?仙蔵も。」
「好きにしろ。」
「ありがとう。」
素直にその言葉が嬉しくて、安心できて、気付いたら涙が出ていた。
皆には心配されたし、文次郎と留三郎はお前が泣かしたってケンカ始めるし。
でも違うんだ、十七年生きてきた中で初めて対等に付き合える存在を見つけられたからなんだよ。
私の大切なものがまた一つ、いや六つ見つかった。
隆光、外の世界はこんなに明るいんだね。
その夜はなかなか寝付けなかった。
いいことがあったから、興奮しているせいかも。
何度目かの寝返りを打つが、眠れる気がしない。
ふと窓の外を見ると、今夜は満月だった。
そうだ、少し外に出ても大丈夫かな。
音を立てないようにそっと中庭まで出てみる。
月っていいな。
優しい感じ。
見守ってくれている感じがする。
遠く離れた人と月を通して繋がれるかな。
今頃、同じ月を見ているかな。
「……隆光」
「………動いたな。」
土井は山田の言葉に頷く。
その人物は警戒はしているものの、気配自体を隠すことはない。
どうする?
彼女が足を止めた。
山田、土井は物陰に身を潜めその様子を伺う。
どうか悪い方へ向かわないで欲しい。
彼女を疑いたくはない。
風が彼女の長い髪を揺らす。
月の光の中でも輝きを無くさない美しい髪。
そして聞こえた。
まさか、それが
歌だったなんて
『あなたに会えないから
涙を堪えて空を見ています
遠く離れたあなたは今
月を見上げていますか
あなたへの想いは溢れてくる
言葉にすることができないくらい
私の心を映す天に浮かぶ月
強く願えば光輝く
お願い早く会えますように
声を聴かせて
月が欠けてしまう前に』
彼女は月に向かって歌っていた。
その光景があまりにも綺麗で儚くて、目が離せなくなる。
ただ
彼女には想い人がいたんだ。
目の前が暗く、立っていられなくなる。
何故考えなかった。
いや、考えたくなかった。
自分でも驚くくらい、私は彼女に惹かれていたんだ。
「………さて、戻りますかな。」
「山田先生?」
「学園長が仰った通り、彼女は忍でも間者でもなさそうだ。そうじゃなきゃ、よっぽど腕が立つんだろうな。」
山田の表情は晴々としていた。
土井は悟られないように、息を長く吐いた。
すっかり日の出と共に目覚める癖がついているので、早起きは苦ではなかった。
身支度をして食堂へ向かうと、おばちゃんから何かを手渡された。
「おばちゃん、これは?」
「昨日ね、あったはずだなーと思って探したのよ。そしたらあったの、エプロン。良かったら使ってね。」
もらったエプロンを広げてみる。
たくさんのフリフリがついた白いエプロン。
おばちゃんのお古なんだろうか、それでも気持ちはすごく嬉しかった。
「ありがとう、おばちゃん!大切に使わせてもらいますね。」
おばちゃんと二人で朝食の準備をする。
すると、廊下を走ってくる足音が聞こえる。
もう誰か来たのだろうか、まだ時間は早い。
「おおーー!!いたーー!!」
駆け込んできた人物に指を差され、びくっと肩を震わせる。
六年生で一番元気な彼だった。
「おい、いたぞ!!文次郎!!」
「小平太!そんなに騒ぐな!驚いているじゃないか。」
続いて入ってきた人物も、昨夜見た顔だった。
「私は七松小平太だ。こっちの渋い顔は潮江文次郎。なぁ、名前何て言うんだ?」
「渋いって言うな!!」
小平太は文次郎の言葉など、まるでお構い無しの様子。
椿は二人のやり取りに笑みがこぼれる。
「私は竹森椿。よろしくね。」
「椿か!なぁ、今日後で時間あるか?迎えにくるからな!」
椿の答えを待たずして、小平太は文次郎と続々現れた六年生に引っ張られて行った。
「小平太、椿さんに何するつもり?」
「秘密だ!だがとてもいいことだ!」
「モソ…小平太のいいことは大抵良くない。」
「ああ、そうだな。」
小平太が振り返り椿と目が合うと、二人は笑顔で手を振りあった。
「…なんか気に食わん。」
「おはよう、椿さん。」
「おはよう雷蔵君。みんなも、早いんだね。」
やってきた五年生と朝の挨拶を交わす。
一人足りない気がするけど、気のせいかな?
「朝から椿さんに会えると思うと、いてもたってもいられなくてね。それにそのエプロン姿…」
注目を浴び、気恥ずかしい感じがした。
「え、これ?」
「うん、かわいい。」
声のトーンを落とし、ふっと笑う雷蔵の顔に椿の顔が熱くなる。
「あれ、照れてる?」
「…!もう、年上をからかうんじゃありません!」
ぷいっと頬を膨らませそっぽを向く椿に対して、怒っても効果ないんだけどなとその場の一同は思った。
「はは、ごめんごめん。」
椿から受け取った朝食を手にし、離れようとして足を止める。
「ちなみに、雷蔵だったらこんなことしないと思うよ。」
「え?」
遅れてやってくるもう一人の同じ顔。
人の良さそうな彼が本物の雷蔵だった。
なんだか化かされた気分だ。
「…三郎君ね…」
「え、見分けがつかない?不破先輩と鉢屋先輩の?」
「でもそれは、俺たちでもわからないっスよ。」
「先輩たち、いつも二人でいるもんね。」
乱太郎、きり丸、しんべぇに相談するも、この解答だった。
「そうなんだ~。私が忍者じゃないからわからないのかと思っちゃった。でもさ、誰だって名前を間違えて呼ばれたら嫌だよね…」
ため息をふーっと吐く。
乱太郎たち三人は、顔を見合わせて笑った。
「椿さん、あまり悩まなくてもいいと思いますよ。」
「そうそう、結局鉢屋先輩だって相手の反応見て楽しんでるみたいだし。」
「そうですよ。先輩は悪戯好きなんです。それより僕、気になってることがあるんだけど。」
「なーに?しんべぇ。」
「椿さん、食堂のおばちゃん見習いってことは、いつかは食堂のおばちゃんになっちゃうの?食堂のおばちゃんが二人になっちゃうの?」
「しんべぇ!せめて食堂のお姉さんでしょ!椿さん、悪気はないんです。」
「しんべぇは素直すぎなんです、すんません。」
乱太郎、きり丸がフォローに回る。
椿はうーんと考えていたが、真剣な面持ちで机をバンっと叩く。
「しんべぇ君!」
「は、はい…!」
「どうしよう、私食堂のおばちゃんになるのかな?おばちゃん二人だと混乱しちゃうよね?」
乱太郎、きり丸はその場でズッコケた。
「あら、冗談よ。ふふふ。」
少し三郎の気持ちがわかった気がした。
食堂の仕事は楽しいが、やはり大変なものだった。
学園全員分の食事の準備、それに片付けもある。
合間に少しの空き時間はあるが、一日のほとんどは食堂に缶詰めである。
食堂のおばちゃんは椿の働きぶりを喜んでくれた。
「でも休める時に休まなきゃダメ。元気が基本よ。」
そう言われて解放されたランチの片付けの後、外に出て固まった体をうーんと伸ばす。
空は蒼く今日も日射しが暖かい。
散歩してみようかな、昨日土井に案内してもらった忍たまの学舎のほうへ足を運ぶ。
ここで皆は立派な忍者になるために勉学に励んでいるんだ。
いいなぁ。
もし生まれた先が違ったら、自分も他の子供と一緒に学校に通えただろうか。
友達を作り、勉強や遊びを共にすることができただろうか。
しかし運命を悔やむわけではない。
今は学園長から与えられたこの生活を大事にしようと思う。
そうして歩いていると、地面に這いつくばっている集団を見つける。
「八左ヱ門君?何してるの?」
「あ、椿さん!動かないで!今ミーちゃんを探してて…」
「ミーちゃん?」
猫でも探してるのかな?
でもなんで皆地面を見ているの?
疑問に思っていると、突然手をぐっと引かれた。
「こんなとこにいたのか!探したぞ!」
さぁ行こうと問答無用で引っ張るのは小平太。
そういえば朝用事があるようなこと言ってた。
「ちょっと!そんなに早く走れなっ…!」
プチッ
何かを踏んだ音がした。
後ろを見ると泣き叫ぶ八左ヱ門たち。
椿は全く訳がわからないまま、小平太に連れ去られることになった。
「……で?」
「バレーをやろう!」
「やろう!」
小平太に無理矢理連れて来られた椿は彼が発した言葉がとても魅力的に聞こえた。
キラキラした笑顔の小平太と椿。
それに引き換え暗い顔でため息をつく六年生一同。
「でもバレーってどうやるの?」
「なんだ、知らないのか。要はこのボールの打ち合いだ。長次!」
小平太はボールを高く投げる。
それを長次がトスで上げた。
「いけいけどんどーん!」
小平太が飛び上がりボールを打ち込む。
とっさのことで身動き取れない椿の前に現れたのは留三郎。
目がつり上がっている。
「バカか、小平太!!死ぬだろうが!!」
留三郎がボールを受け返す。
椿は子供のようにはしゃいだ。
「すごーい!もう一回!」
「アホか!!あんなの取れるはずないだろ!!」
調子に乗った小平太がリクエストに答え、再度アタック。
次に出てきたのは文次郎。
「バカタレ!よそ見してる場合か!」
「あ?誰がバカだと!俺はこいつが怪我しないようにだな!」
「ちゃっかりバレーに参加してるじゃないか!すぐにやめろ!」
「そういうお前も打ち返してんじゃねぇよ!」
「もう!二人ともボール回してよー!」
留三郎と文次郎が言い争いを始めると、椿は無謀にも間に入ろうとする。
「椿さん!」
伊作がボールを回してくれる。
椿は見よう見まねで返した。
「そう、うまい!また返してみて!」
椿は楽しそうに伊作とラリーを続けた。
レシーブ、トス、アタックと伊作が優しく教えてくれるので、椿はバレーの遊び方を理解することができた。
楽しい!
友達と遊ぶって、きっとこんな感じなんだ!
「ずるいぞ、伊作!私にも回せー!」
「なかなかやるな。」
輪から外れて見ていた仙蔵が、私も混ぜろと中に入ってくる。
七人はしばらくの間ボールを回し続けた。
「はぁ、はぁ、もうダメ~」
椿はその場に座り込んだ。
だが、その表情は満足感に溢れている。
「ったく、大丈夫かよ?」
「なぁ、楽しいだろ!」
うん、と肯定する。
息を整えようとして空を見上げる。
相変わらずの青い空に雲が静かに流れていった。
「ねぇ!」
椿が立ち上がり、六人が彼女に視線を集める。
「今から"さん"付け禁止。敬語もダメ。私も皆のこと普通に呼びたいから。いいでしょ、はい決定ー!」
「はぁ?」
「なんだ、私は最初からそうしてるぞ。」
「モソ…別に構わない。」
「留三郎なんて"こいつ"って言ってたしなぁ。」
「あれは!言葉のあやってやつでだな!」
「まあまあ、いいんじゃない?仙蔵も。」
「好きにしろ。」
「ありがとう。」
素直にその言葉が嬉しくて、安心できて、気付いたら涙が出ていた。
皆には心配されたし、文次郎と留三郎はお前が泣かしたってケンカ始めるし。
でも違うんだ、十七年生きてきた中で初めて対等に付き合える存在を見つけられたからなんだよ。
私の大切なものがまた一つ、いや六つ見つかった。
隆光、外の世界はこんなに明るいんだね。
その夜はなかなか寝付けなかった。
いいことがあったから、興奮しているせいかも。
何度目かの寝返りを打つが、眠れる気がしない。
ふと窓の外を見ると、今夜は満月だった。
そうだ、少し外に出ても大丈夫かな。
音を立てないようにそっと中庭まで出てみる。
月っていいな。
優しい感じ。
見守ってくれている感じがする。
遠く離れた人と月を通して繋がれるかな。
今頃、同じ月を見ているかな。
「……隆光」
「………動いたな。」
土井は山田の言葉に頷く。
その人物は警戒はしているものの、気配自体を隠すことはない。
どうする?
彼女が足を止めた。
山田、土井は物陰に身を潜めその様子を伺う。
どうか悪い方へ向かわないで欲しい。
彼女を疑いたくはない。
風が彼女の長い髪を揺らす。
月の光の中でも輝きを無くさない美しい髪。
そして聞こえた。
まさか、それが
歌だったなんて
『あなたに会えないから
涙を堪えて空を見ています
遠く離れたあなたは今
月を見上げていますか
あなたへの想いは溢れてくる
言葉にすることができないくらい
私の心を映す天に浮かぶ月
強く願えば光輝く
お願い早く会えますように
声を聴かせて
月が欠けてしまう前に』
彼女は月に向かって歌っていた。
その光景があまりにも綺麗で儚くて、目が離せなくなる。
ただ
彼女には想い人がいたんだ。
目の前が暗く、立っていられなくなる。
何故考えなかった。
いや、考えたくなかった。
自分でも驚くくらい、私は彼女に惹かれていたんだ。
「………さて、戻りますかな。」
「山田先生?」
「学園長が仰った通り、彼女は忍でも間者でもなさそうだ。そうじゃなきゃ、よっぽど腕が立つんだろうな。」
山田の表情は晴々としていた。
土井は悟られないように、息を長く吐いた。