1年生
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01.First Love?-No,It is Tenacity.
少し、昔話をしようか。
あれは、確か小学6年生の頃だったと思う。先生に半ば勝手に提出された私の読書感想文がそこそこ良い賞を取ってしまったとか何とかで、全校生徒の前で表彰されることになったことがあった。
当時の私は、今以上に根暗であがり症だったため、人前に出るなんて耐えられなかった。しかし断れるほどの勇気を持ち合わせているわけもなく、私は顔を真っ青にして、さながら処刑前の囚人のように震えながら列の真ん中辺りで自分の順番を待っていた。
やばい、気持ち悪い。吐きそう、無理。そんなことをぐるぐると考えながら立ち竦む自分。その時だった、あの男と出会ったのは。
「おまえ、大丈夫?」
そう言って話しかけてきたのは、私の後ろに並んでいた同級生、かの荒北靖友だった。彼もまた私同様本日表彰されるようで、なんでも、所属している少年野球団が優勝したらしい。後ろに同じ団体と思われる生徒もいて、彼は慣れた様子でそこに立っていた。
「すっげェ顔色わりーけど」
荒北靖友は私とは異なり、余裕の表情をしていた。それは多分慣れ以上に、元来の性格のせいなのだろう。何というか、腹立たしい。
「…あんまり、こういうの、慣れてないから」
「ふーん」
震える声でそう呟けば、彼はさして興味のなさそうな様子で「そりゃあタイヘンだな」と言った。
聞いといてなんだその答えは、と苛立ったりもしたが、そんなことを初対面のこの目立つ男に言えるはずもなく、私はそのまま黙った。正直、それどころではなかったというほうが正しいのかもしれない。
「別に悪いことして目立ってるわけじゃねーんだし、堂々とすりゃあいいじゃん」
「…目立つこと自体、嫌いなの」
「あっそ」
そう言って、彼は黙った。きっと理解出来ない、根暗な奴だ、と愛想を尽かしたのだろう。全くもってその通りだ。私は地味で根暗で、人気者の荒北靖友とは違う。
名前を呼ばれ、一人、また一人と壇上に上がっていく。胃がキリキリと痛む。ああ、もう駄目かもしれない。呼ばれてしまう、次は、私だ。身体が悲鳴を上げ、ついに限界を迎え意識を手放しかけたその時。
「センセー」
静かな体育館に、気怠げな声が響き渡った。
「気持ち悪いんで、保健室行ってきマース」
それは、紛れもなく私の後ろから聞こえてきた。そして状況を把握する間も無く、後ろの彼はスタスタと出口へ向かって歩き出した。
「えっ」
その手に、私の左手を掴んで。
「ねえ、ちょっと、あの…」
「………」
私の戸惑いを無視し、荒北靖友はズンズンと廊下を歩いて行く。足を縺れさせながら必死に着いていくと、到着したのは先程の宣言通り、保健室であった。ガラガラと臆することなく入っていった目の前の男は、ひとこと。
「センセー、こいつ気持ち悪いって」
それだけ言って、くるりと来た道を引き返していく。私は、置いてけぼり。
「あ、ちょっと荒北君!?」
保健室の先生の慌てた声が聞こえるが、それどころではなかった。繋がれていた左手首が、まだ熱い。
「えーっと、あなた、具合悪いの?」
「……はい」
蚊の鳴くような自分の声。何が起こったのかわからぬまま、心臓の音だけがどくどくと身体を支配する。
「(…あらきた、やすとも……)」
×××××
…―――まあその一件以来、私はあの男に惚れ続けているというわけだ。我ながら随分と一途というか何というか。
「……………」
入学式。如何にも私立、といった校舎をひとり寂しく潜り、堂々と佇む掲示物をぼんやりと眺める。数年間の習慣とは怖いもので、意識するよりも先に私の眼球は貪欲に彼の名前を探し動く。もはや反射と言ってもいいかもしれない(…というより、彼の苗字が見つけ易すぎるのが問題だと思う)。
「……1年A組」
彼はA組だった、さて私はどこだろう。掲示板の細かい文字列を端から端まで眺める。結論から言って、私はD組だった。A組とは近いのか遠いのかよくわからない距離。まあ何はともあれ、数年間の悲願は今年も達成されず、私と彼は離れた。
「まあ、今更同じクラスになっても困るだけなんですけどねえ」
こうして、恒例行事を今年も終え、私の高校生活は幕を開けたのである。
少し、昔話をしようか。
あれは、確か小学6年生の頃だったと思う。先生に半ば勝手に提出された私の読書感想文がそこそこ良い賞を取ってしまったとか何とかで、全校生徒の前で表彰されることになったことがあった。
当時の私は、今以上に根暗であがり症だったため、人前に出るなんて耐えられなかった。しかし断れるほどの勇気を持ち合わせているわけもなく、私は顔を真っ青にして、さながら処刑前の囚人のように震えながら列の真ん中辺りで自分の順番を待っていた。
やばい、気持ち悪い。吐きそう、無理。そんなことをぐるぐると考えながら立ち竦む自分。その時だった、あの男と出会ったのは。
「おまえ、大丈夫?」
そう言って話しかけてきたのは、私の後ろに並んでいた同級生、かの荒北靖友だった。彼もまた私同様本日表彰されるようで、なんでも、所属している少年野球団が優勝したらしい。後ろに同じ団体と思われる生徒もいて、彼は慣れた様子でそこに立っていた。
「すっげェ顔色わりーけど」
荒北靖友は私とは異なり、余裕の表情をしていた。それは多分慣れ以上に、元来の性格のせいなのだろう。何というか、腹立たしい。
「…あんまり、こういうの、慣れてないから」
「ふーん」
震える声でそう呟けば、彼はさして興味のなさそうな様子で「そりゃあタイヘンだな」と言った。
聞いといてなんだその答えは、と苛立ったりもしたが、そんなことを初対面のこの目立つ男に言えるはずもなく、私はそのまま黙った。正直、それどころではなかったというほうが正しいのかもしれない。
「別に悪いことして目立ってるわけじゃねーんだし、堂々とすりゃあいいじゃん」
「…目立つこと自体、嫌いなの」
「あっそ」
そう言って、彼は黙った。きっと理解出来ない、根暗な奴だ、と愛想を尽かしたのだろう。全くもってその通りだ。私は地味で根暗で、人気者の荒北靖友とは違う。
名前を呼ばれ、一人、また一人と壇上に上がっていく。胃がキリキリと痛む。ああ、もう駄目かもしれない。呼ばれてしまう、次は、私だ。身体が悲鳴を上げ、ついに限界を迎え意識を手放しかけたその時。
「センセー」
静かな体育館に、気怠げな声が響き渡った。
「気持ち悪いんで、保健室行ってきマース」
それは、紛れもなく私の後ろから聞こえてきた。そして状況を把握する間も無く、後ろの彼はスタスタと出口へ向かって歩き出した。
「えっ」
その手に、私の左手を掴んで。
「ねえ、ちょっと、あの…」
「………」
私の戸惑いを無視し、荒北靖友はズンズンと廊下を歩いて行く。足を縺れさせながら必死に着いていくと、到着したのは先程の宣言通り、保健室であった。ガラガラと臆することなく入っていった目の前の男は、ひとこと。
「センセー、こいつ気持ち悪いって」
それだけ言って、くるりと来た道を引き返していく。私は、置いてけぼり。
「あ、ちょっと荒北君!?」
保健室の先生の慌てた声が聞こえるが、それどころではなかった。繋がれていた左手首が、まだ熱い。
「えーっと、あなた、具合悪いの?」
「……はい」
蚊の鳴くような自分の声。何が起こったのかわからぬまま、心臓の音だけがどくどくと身体を支配する。
「(…あらきた、やすとも……)」
×××××
…―――まあその一件以来、私はあの男に惚れ続けているというわけだ。我ながら随分と一途というか何というか。
「……………」
入学式。如何にも私立、といった校舎をひとり寂しく潜り、堂々と佇む掲示物をぼんやりと眺める。数年間の習慣とは怖いもので、意識するよりも先に私の眼球は貪欲に彼の名前を探し動く。もはや反射と言ってもいいかもしれない(…というより、彼の苗字が見つけ易すぎるのが問題だと思う)。
「……1年A組」
彼はA組だった、さて私はどこだろう。掲示板の細かい文字列を端から端まで眺める。結論から言って、私はD組だった。A組とは近いのか遠いのかよくわからない距離。まあ何はともあれ、数年間の悲願は今年も達成されず、私と彼は離れた。
「まあ、今更同じクラスになっても困るだけなんですけどねえ」
こうして、恒例行事を今年も終え、私の高校生活は幕を開けたのである。
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