1年生
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08.寡黙な王様にご挨拶
「…おい、樒原」
誰かに呼ばれた気がする。
そう感じた私は眠っていた意識を浮上させ、机に伏せていた顔をゆっくりと上げた。寝惚け眼のまま辺りを見渡すと、真っ正面に黒い影が出来ているのに気づいた。その影につられるように視線を上にずらすと、そこにいたのは何とも眩い金髪頭の男子生徒で、射抜くような鋭い眼光で私のことを見ていた。
「……………」
「寝ているところ起こしてすまない。提出物の回収だ」
「………福富くん?」
「そうだ」
私の目の前にいたのは、これまで一度も喋ったことのない強面のクラスメイト、福富寿一君だった。
「……………」
「…樒原?」
状況を把握するのに数秒を要した。覚醒して間もない私の脳は、この異常事態をどう処理したらいいのかわからず、わかりやすく思考することを放棄した。人間こうなると逆に冷静になるものだ。いつも通りのトーンで私は福富君に聞き返す。
「…えっと、ごめんなさい、あの、何の提出物でしたっけ…」
「前回の古典の授業で出されたプリントだ」
「あ、古典ですね、はい、今出します」
鞄の中を漁りながら、徐々に普段の思考を取り戻した私は、改めてこの危機的な状況について考えてみる。私そもそも、福富君みたいな人と話したことないし、なんていうか金髪だし、正直めちゃくちゃ怖いしどうしよう。あとなぜに福富君?いつもこういうのは女子の学級委員がやってたよね?ていうか私寝起きの顔だしすごい恥ずかしいんだけど涎とかついてたらどうしようていうか古典のプリント見つからないね?
「あ、えっと、ごめんなさい、いま、今出すから」
「慌てなくても大丈夫だ」
「あ、あの、何なら他の人の分先に集めてきてもらっても…」
「他は今日の朝のSHRで集め終わってる。樒原は朝居なかったから」
うわっ最低すぎる!!今朝も単なる寝坊だよ馬鹿!!!!
「うわあの本当にすみませんご迷惑おかけして」
慌てて探すこと(多分)数十秒。ようやくファイルの中から発掘したプリントを福富君に差し出す。
「お待たせしました、お願いします」
「ああ」
「いつも女子の分は鈴木さんが回収しているのに、珍しいですね」
「鈴木は今日休みだ」
「え、あ、そうでしたか」
「樒原も同じクラスだろう」
「あはは…」
やばい、気まずさから振った話題によって完全にクラスに興味がないことがばれてしまった。墓穴だ、痛恨のミスである。さぞ薄情な人間だと思われただろう。
「樒原はいつも寝ているからな」
「返す言葉もございません…」
優等生の視線がとても痛い。福富君の表情がいつも以上に厳しい気がして、勝手に気まずくなって視線を下げた。やっぱり学級委員なんてやる人にとって、私みたいな人間最下層な屑は見るに堪えないのだろう。同じ空気吸うのも嫌的な。いや本当ごもっともです。生きててすみません。
「もうじき次のテストの範囲も発表されるだろうに」
「そうでしたっけ…ついこの前前期テストやったばっかりな気がしますけど、時が経つのは早いですねえ」
「そんなことで大丈夫なのかと言いたいところだが…樒原は成績が良かったな」
「ええ、そんな福富くんに言われるなんて恐れ多い」
今のはもしかして嫌味か?皮肉か?学級委員なんて務めてる優等生から言われても素直に喜べないんですけど。
「塾とか通ってるのか?」
「いえ、全然」
「それであの成績なのか」
「一夜漬けはわりと得意で…でも英語とかは本当に苦手で毎回死にそうですよ」
謙遜とかじゃなくて事実ね。日本語も満足に話せないのに異国語とか無理に決まってるよね、もう一度鎖国に戻ってくれないかなほんと。
「そうなのか?授業で当てられてた時の音読の様子を聴いてる感じだと得意なのかとばかり思っていたが」
え、優等生にそんな風に思われてたの。恥ずかし過ぎるんですけど。
「英語の音読はまず恥ずかしがらず外国人になりきることが大事ですよね。発音は二の次で!」
「そうなのか」
「演劇部ですからね!」
まあ半分冗談なんですけど。しかし福富君は真に受けたのか真面目な顔で成る程、なんて頷いてる。いやいや真面目か!
「いや、そんな本気にしないで頂けると…」
「ん、樒原が演劇部というのは嘘なのか?」
「あ、いえそっちは本当なんですけど」
なんだなんだ、会話の流れがちょっとおかしいぞ?これはもしやあれか?福富君は俗にいうあれか?天然なのか???
「演劇は見たことがないな」
「えっと、毎年文化祭で披露するみたいなので、良ければ」
「そうか」
福富君の表情は変わらない。正直何を考えているのかわからないが、不思議と私の心にあった福富君に対する恐怖心はなくなっていた。
「じゃあ、俺は職員室に行くから」
「あ、はい。あの本当にお手数お掛けしましたすみません」
「俺は別に構わないが、遅刻と居眠りは程々にな」
「あはは、善処します…」
颯爽と去って行く福富君。なんというか、人間できてるというか、人格者だなあという印象。怖い堅物改め、不思議なクラスメイト。
「あ、部活行かなきゃ」
気付けばもう放課後。周りを見渡せば教室は既に私と福富君の二人しかいなかったようで、どれだけ私が爆睡していたかがわかる。改めて彼に感謝である。
福富君に今度菓子折り持っていこうと心に決めた樒原であった。
「…おい、樒原」
誰かに呼ばれた気がする。
そう感じた私は眠っていた意識を浮上させ、机に伏せていた顔をゆっくりと上げた。寝惚け眼のまま辺りを見渡すと、真っ正面に黒い影が出来ているのに気づいた。その影につられるように視線を上にずらすと、そこにいたのは何とも眩い金髪頭の男子生徒で、射抜くような鋭い眼光で私のことを見ていた。
「……………」
「寝ているところ起こしてすまない。提出物の回収だ」
「………福富くん?」
「そうだ」
私の目の前にいたのは、これまで一度も喋ったことのない強面のクラスメイト、福富寿一君だった。
「……………」
「…樒原?」
状況を把握するのに数秒を要した。覚醒して間もない私の脳は、この異常事態をどう処理したらいいのかわからず、わかりやすく思考することを放棄した。人間こうなると逆に冷静になるものだ。いつも通りのトーンで私は福富君に聞き返す。
「…えっと、ごめんなさい、あの、何の提出物でしたっけ…」
「前回の古典の授業で出されたプリントだ」
「あ、古典ですね、はい、今出します」
鞄の中を漁りながら、徐々に普段の思考を取り戻した私は、改めてこの危機的な状況について考えてみる。私そもそも、福富君みたいな人と話したことないし、なんていうか金髪だし、正直めちゃくちゃ怖いしどうしよう。あとなぜに福富君?いつもこういうのは女子の学級委員がやってたよね?ていうか私寝起きの顔だしすごい恥ずかしいんだけど涎とかついてたらどうしようていうか古典のプリント見つからないね?
「あ、えっと、ごめんなさい、いま、今出すから」
「慌てなくても大丈夫だ」
「あ、あの、何なら他の人の分先に集めてきてもらっても…」
「他は今日の朝のSHRで集め終わってる。樒原は朝居なかったから」
うわっ最低すぎる!!今朝も単なる寝坊だよ馬鹿!!!!
「うわあの本当にすみませんご迷惑おかけして」
慌てて探すこと(多分)数十秒。ようやくファイルの中から発掘したプリントを福富君に差し出す。
「お待たせしました、お願いします」
「ああ」
「いつも女子の分は鈴木さんが回収しているのに、珍しいですね」
「鈴木は今日休みだ」
「え、あ、そうでしたか」
「樒原も同じクラスだろう」
「あはは…」
やばい、気まずさから振った話題によって完全にクラスに興味がないことがばれてしまった。墓穴だ、痛恨のミスである。さぞ薄情な人間だと思われただろう。
「樒原はいつも寝ているからな」
「返す言葉もございません…」
優等生の視線がとても痛い。福富君の表情がいつも以上に厳しい気がして、勝手に気まずくなって視線を下げた。やっぱり学級委員なんてやる人にとって、私みたいな人間最下層な屑は見るに堪えないのだろう。同じ空気吸うのも嫌的な。いや本当ごもっともです。生きててすみません。
「もうじき次のテストの範囲も発表されるだろうに」
「そうでしたっけ…ついこの前前期テストやったばっかりな気がしますけど、時が経つのは早いですねえ」
「そんなことで大丈夫なのかと言いたいところだが…樒原は成績が良かったな」
「ええ、そんな福富くんに言われるなんて恐れ多い」
今のはもしかして嫌味か?皮肉か?学級委員なんて務めてる優等生から言われても素直に喜べないんですけど。
「塾とか通ってるのか?」
「いえ、全然」
「それであの成績なのか」
「一夜漬けはわりと得意で…でも英語とかは本当に苦手で毎回死にそうですよ」
謙遜とかじゃなくて事実ね。日本語も満足に話せないのに異国語とか無理に決まってるよね、もう一度鎖国に戻ってくれないかなほんと。
「そうなのか?授業で当てられてた時の音読の様子を聴いてる感じだと得意なのかとばかり思っていたが」
え、優等生にそんな風に思われてたの。恥ずかし過ぎるんですけど。
「英語の音読はまず恥ずかしがらず外国人になりきることが大事ですよね。発音は二の次で!」
「そうなのか」
「演劇部ですからね!」
まあ半分冗談なんですけど。しかし福富君は真に受けたのか真面目な顔で成る程、なんて頷いてる。いやいや真面目か!
「いや、そんな本気にしないで頂けると…」
「ん、樒原が演劇部というのは嘘なのか?」
「あ、いえそっちは本当なんですけど」
なんだなんだ、会話の流れがちょっとおかしいぞ?これはもしやあれか?福富君は俗にいうあれか?天然なのか???
「演劇は見たことがないな」
「えっと、毎年文化祭で披露するみたいなので、良ければ」
「そうか」
福富君の表情は変わらない。正直何を考えているのかわからないが、不思議と私の心にあった福富君に対する恐怖心はなくなっていた。
「じゃあ、俺は職員室に行くから」
「あ、はい。あの本当にお手数お掛けしましたすみません」
「俺は別に構わないが、遅刻と居眠りは程々にな」
「あはは、善処します…」
颯爽と去って行く福富君。なんというか、人間できてるというか、人格者だなあという印象。怖い堅物改め、不思議なクラスメイト。
「あ、部活行かなきゃ」
気付けばもう放課後。周りを見渡せば教室は既に私と福富君の二人しかいなかったようで、どれだけ私が爆睡していたかがわかる。改めて彼に感謝である。
福富君に今度菓子折り持っていこうと心に決めた樒原であった。