1年生
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05.夢でも逢えたら
ふあ、と欠伸を一つ。今は4時限目、静かな教室に滑舌の悪い教師の声が響く。時折聞こえる鉛筆を動かす音には気付かないふりをして、私は今日も気怠い様子を隠さず頬杖をついて窓の外を眺めていた。
「(…おなかすいたなあ)」
眠気と空腹が鬩ぎ合い、私の思考は徐々に停止へと向かっていく。ちらりと教師がこちらを見た気がしたが、私が振り向いた時には既に、その視線は別の生徒へと向けられていた。
「(…露骨すぎるでしょ)」
つい先日の中間考査以降、教師陣は明からさまに私の素行に見て見ぬ振りをし始めた。問題児であった私が予想外の成績を修めてしまったという事実に、どう対応すればいいのかと完全に戸惑っていることが見てわかる。
「(ま、私は気楽でいいけどね)」
職員室であんな啖呵を切ってしまった手前だ。やらざるを得なかった為にそこそこ本気で勉強に取り組んだ結果、自分でも驚くほどの好成績を修めてしまった。まあ入学後初の試験ということで範囲も狭く、内容もそう難しくなかったことが大きいだろう。いやあ、良かった良かった。
「……………」
しかし実際こうなってみると、もしや次の試験からも常に頑張り続けなければならないのだろうか。いや学生の本分は勉強であるからして、それは本来正しい姿だけれども、勉強嫌いな私としてはできることならば勉強はやりたくない。
私にもたらされる利益とそれにかかる労力。その二つを天秤に掛けるとすると、果たして私の選択は正しかったのであろうか。うーん、正直悩ましい。
「(…やめやめ、こんな不毛なことを考えるなんて時間の無駄)」
私は教師に気付かれない程度に小さく頭を振った。そして、気を取り直し再び窓の外を眺める。すると、斜め下に覚えのある人影が見えた。
「(あれは…)」
今時珍しい古風な不良スタイル。そのテンプレートとも言えるであろうリーゼント頭は、私のいる二階の教室からでもとてもよく目立つ。…あの様な時代錯誤のヤンキー、学校にそう何人もいてたまるか。
「(…本当に噂通りだ……荒北靖友…)」
私の席から丁度見える位置。幻のようなあの男は、確かにそこに存在していた。授業中であるにも関わらず堂々と外を闊歩するその様子は、まごう事なきヤンキーのそれ。私は珍しい彼の姿に、眠気も忘れて釘付けになった。
「……………」
中学時代は、まだあの様なあからさまな格好はしていなかったように思う。週に一度廊下で見かける程度の頻度であったが、少なくともあの髪型はしていなかった筈だ。寮生活で親の目がなくなったからであろうか、あれが高校デビューというやつか。
「(…ふふ)」
荒北靖友とは例のあの一件以来喋ったことがない程の間柄でしかないが、何というか、金髪ピアスの今時のヤンキーではなく古風なヤンキーになっているあたり、彼らしいなと思って個人的にはとてもほっこりした。筍のようなその頭が歩幅に合わせて左右に揺れている。交わることのない視線。その鋭い眼光の先には、一体何が見えているのだろうか。
「……………」
これだけ私が熱視線を送っていても、彼は一向に気付かない。まあ、気付かれても困るけど。
私がそんなことを考えている間にも彼はずんずんと先に進み、やがて私の位置からは見えなくなってしまった。どこへ行ったのだろう。彼が向かった先には何も無かった筈だが、もしかして不良の溜まり場的な場所があるのだろうか。気になる。
「(…今度行ってみようかな)」
短い、それこそ数分足らずの出来事だった。荒北靖友という観察対象を失った私の意識は、わかりやすく活動することをやめた。忘れかけていた睡魔が再び戻ってくる。うーむ、眠い。
再び欠伸を一つ。授業終了まで、あと30分程ある。
「……………」
荒北靖友、私のヒーロー。
ねえ私、あなたのことを散々に言っていた教師に一泡吹かせてやったのよ。テスト返却のときのあいつらの顔、あなたにも見せてあげたかったわ。
―――ねえ、私、あなたのこと少しは守れたかしら。
我ながら中々にポエミーで恥ずかしいようなことをぼんやり考えながら、私の意識は静かに眠りについた。
「(…まるで、荒野の狼ね)」
久しぶりに見た彼の姿が、瞼に焼き付いている。
夢にも出てきてくれればいいのにと、そんな柄にもないことを思った。
ふあ、と欠伸を一つ。今は4時限目、静かな教室に滑舌の悪い教師の声が響く。時折聞こえる鉛筆を動かす音には気付かないふりをして、私は今日も気怠い様子を隠さず頬杖をついて窓の外を眺めていた。
「(…おなかすいたなあ)」
眠気と空腹が鬩ぎ合い、私の思考は徐々に停止へと向かっていく。ちらりと教師がこちらを見た気がしたが、私が振り向いた時には既に、その視線は別の生徒へと向けられていた。
「(…露骨すぎるでしょ)」
つい先日の中間考査以降、教師陣は明からさまに私の素行に見て見ぬ振りをし始めた。問題児であった私が予想外の成績を修めてしまったという事実に、どう対応すればいいのかと完全に戸惑っていることが見てわかる。
「(ま、私は気楽でいいけどね)」
職員室であんな啖呵を切ってしまった手前だ。やらざるを得なかった為にそこそこ本気で勉強に取り組んだ結果、自分でも驚くほどの好成績を修めてしまった。まあ入学後初の試験ということで範囲も狭く、内容もそう難しくなかったことが大きいだろう。いやあ、良かった良かった。
「……………」
しかし実際こうなってみると、もしや次の試験からも常に頑張り続けなければならないのだろうか。いや学生の本分は勉強であるからして、それは本来正しい姿だけれども、勉強嫌いな私としてはできることならば勉強はやりたくない。
私にもたらされる利益とそれにかかる労力。その二つを天秤に掛けるとすると、果たして私の選択は正しかったのであろうか。うーん、正直悩ましい。
「(…やめやめ、こんな不毛なことを考えるなんて時間の無駄)」
私は教師に気付かれない程度に小さく頭を振った。そして、気を取り直し再び窓の外を眺める。すると、斜め下に覚えのある人影が見えた。
「(あれは…)」
今時珍しい古風な不良スタイル。そのテンプレートとも言えるであろうリーゼント頭は、私のいる二階の教室からでもとてもよく目立つ。…あの様な時代錯誤のヤンキー、学校にそう何人もいてたまるか。
「(…本当に噂通りだ……荒北靖友…)」
私の席から丁度見える位置。幻のようなあの男は、確かにそこに存在していた。授業中であるにも関わらず堂々と外を闊歩するその様子は、まごう事なきヤンキーのそれ。私は珍しい彼の姿に、眠気も忘れて釘付けになった。
「……………」
中学時代は、まだあの様なあからさまな格好はしていなかったように思う。週に一度廊下で見かける程度の頻度であったが、少なくともあの髪型はしていなかった筈だ。寮生活で親の目がなくなったからであろうか、あれが高校デビューというやつか。
「(…ふふ)」
荒北靖友とは例のあの一件以来喋ったことがない程の間柄でしかないが、何というか、金髪ピアスの今時のヤンキーではなく古風なヤンキーになっているあたり、彼らしいなと思って個人的にはとてもほっこりした。筍のようなその頭が歩幅に合わせて左右に揺れている。交わることのない視線。その鋭い眼光の先には、一体何が見えているのだろうか。
「……………」
これだけ私が熱視線を送っていても、彼は一向に気付かない。まあ、気付かれても困るけど。
私がそんなことを考えている間にも彼はずんずんと先に進み、やがて私の位置からは見えなくなってしまった。どこへ行ったのだろう。彼が向かった先には何も無かった筈だが、もしかして不良の溜まり場的な場所があるのだろうか。気になる。
「(…今度行ってみようかな)」
短い、それこそ数分足らずの出来事だった。荒北靖友という観察対象を失った私の意識は、わかりやすく活動することをやめた。忘れかけていた睡魔が再び戻ってくる。うーむ、眠い。
再び欠伸を一つ。授業終了まで、あと30分程ある。
「……………」
荒北靖友、私のヒーロー。
ねえ私、あなたのことを散々に言っていた教師に一泡吹かせてやったのよ。テスト返却のときのあいつらの顔、あなたにも見せてあげたかったわ。
―――ねえ、私、あなたのこと少しは守れたかしら。
我ながら中々にポエミーで恥ずかしいようなことをぼんやり考えながら、私の意識は静かに眠りについた。
「(…まるで、荒野の狼ね)」
久しぶりに見た彼の姿が、瞼に焼き付いている。
夢にも出てきてくれればいいのにと、そんな柄にもないことを思った。