「終わった？」

「あ、はい。」

「そっか。じゃ、下まで一緒に行こう？」

ニコニコと人懐こい笑みを浮かべて、大野さんは言った。
その笑顔に何も言えなくて、一緒にエレベーターに向かう。


「ニノ。」


販売促進部の前を通った時、潤くんに声をかけられた。


「あ、潤くん。今日も残業？」

「そうなんだよ。終わんなくてさあ。」


俺と一緒に立ち止まった大野さんを見て、潤くんが近くに来いと手招きした。

何だろう。
でも、まあ余計な事だろうな。

そう思いながら、潤くんの側に行く。
俺の耳元に手を当てて、潤くんは低い声で囁いた。


「・・お前、大野さんとどっか行くんじゃないだろうな？」


ほら。やっぱり余計な事だ。

このカッコイイ恋人は、俺を信用できないらしく、よく行動をチェックしてくる。
特に大野さん絡みの事については、かなりウルサイ。

ずっと大野さんに憧れてるって話をしてた俺も悪いけど。
だって、まさか潤くんと付き合うとは夢にも思わなかったからね。

俺はため息を付いて、潤くんに囁き返した。


「違うよ。下まで一緒に行くことになっただけ。」

「良かった。心配で仕事になんないトコだった。」


ホッとしたように、潤くんは笑った。

いろいろ聞かれると、正直うざったく感じる時もあるけど。
まあそれだけ好かれてるんだなって思うことにしてる。

俺は潤くんに手を振って、大野さんの元に戻った。