プロポーズ!?

「あのさ・・ニノ。」

「はい?」

「ちょっと・・この書類を預かっててほしいんだけど。」


帰り際、大野さんに茶色の封筒を渡された。

それは本当にありふれた細長い封筒で
書類っていっても、何枚も入ってなさそうな感じだった。


「いいですよ。いつ必要なんですか?」

「・・分かんない。」

「は?」


思わず聞き返してしまった。

いつ必要かも分かんない書類?

何だそれ。


「俺的にはすぐにでも使いたいんだけど・・。」

「はあ。」

「いろいろ事情があって使えない書類なんだ。」


大野さんは、奥歯に物が挟まったような言い方をしてて
俺には、さっぱり意味が分からなかった。

でも、これ以上、説明してくれそうもないな
誰にも言っちゃいけないような、社内の重要書類なんだろう。

俺は勝手にそう理解して、大人しく引き下がることにした。


「分かりました。じゃ、必要な時に言って下さいね。」


鍵のかかる引き出しに封筒を入れようとした時、大野さんが言った。


「あ、それニノん家で保管してほしいんだ。」

「え?会社の資料じゃないんですか?」

「うん・・まあ。」


大野さんは顔を赤くして、下を向いている。

一体、何なんだよ。
いい加減、話が分からなくて苛々してきたな。

俺は封筒を大野さんの目の前にかざした。


「中身は、何ですか?」

「え・・と。」

「俺に預けるってことは、俺が見てもいいってことですよね?」

「・・・。」


大野さんの返事も待たずに、中身を取り出す。

封筒の中には、三つ折りにされた紙が1枚入っているだけだった。


・・・・・え?

これって・・・婚姻届?

大野さんの名前入りだし、印鑑も押されてるけど
予想もしなかった中身に、頭の中が真っ白になってしまった。


「・・大野さん、誰と結婚するんですか?」

「え、あ・・違うって。」


慌てて大野さんが否定してくれたから、やっと分かった。

これは、もしや俺のために用意されたもの?

いやいや。
男同士で婚姻届なんて出せないよ。
現実的には、養子縁組ってところかな。

・・・まあ、でも。
それくらい想ってくれてるってのは、嬉しい。


「んふふっ。どんな顔して、これ貰いに行ったんですか?」

「何だよ。笑うな。恥ずかしかったんだからな。」


大野さんは、照れて真っ赤になっている。

ああ、もう本当に可愛いなあ。
たまんない。

俺は大野さんに近付いて、そっとキスをした。

少しだけのつもりだったのに
大野さんは、俺の後頭部を押さえて、深く舌を差し込んでくる。


「・・ん・・ちょっと、ここ会社。」

「最初に手出したのは、ニノだろ。」

「そう・・だけど・・・んっ・・・。」


俺達はしばらくの間、お互いの舌を存分に味わった。


「そろそろ帰ろうか。」

「そうですね。」


何となく顔を見合わせて笑った。

大野さんと一緒にいると、いつも暖かい空気が流れているような感じがする。

それはとても心地が良くて
俺はいつも幸せな気分になる。


大野さんはあれから書類のことには触れてこないけど。
ちゃんと婚姻届は俺の家に保管されている。

隣の欄に俺の名前が書かれているのは
大野さんには内緒だ。
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