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大野さんの秘書になってから、もうすぐ1カ月。

やっと仕事の全体像が見えてきて、来月からは楽になるなと思ってた頃だった。


「二宮くん。ちょっと、いい?」

「はい。」


珍しく険しい顔をした大野さんに呼ばれた。

やばい。
何かやらかしたか、俺。

今日の仕事をざっと思い返してみたけど、特に思い当たるものがない。


「あのさ・・・この勤務時間は何なの?」


大野さんは、俺の勤務時間を印刷した表をピラピラさせながら言った。


「・・・何か変でした?」

「いや、確認しなかった俺も悪いんだけど。毎日毎日、こんな遅くまで残ってたんだ?」

「あ~・・・。」


俺は言い返せなくて、頭を掻いた。
この会社での残業は遅くても21時までと決められていて。
この1カ月、ほとんど俺はその21時まで残業していた。

前任の人からは少ししか引継ぎを受けれなかったし。
早く仕事を覚えたかったし。
何よりも早く大野さんの役に立ちたかった。


「すみません。俺の残業が多いと大野さんが怒られたりします?」

「・・・会社は関係なくて、俺が嫌なの。」

「え?」

「俺は定時で帰りたいけど、秘書に仕事を押しつけてまで帰ろうとは思ってないから。」


大野さんは、ふくれっ面で文句を言っている。

ああ、そうか。

この人自分の頼んだ仕事のせいで俺が帰れなかったって思ってるんだ。
そういう訳じゃないんだけど。


「残業してたのは、別の理由です。」

「別の理由?」

「ちょっとシステムを作ってたんです。集計がもう少し簡単にできるように。」

「?」


俺は最近完成したばかりのシステムを見せて、大野さんに説明した。
システムって言っても、アクセスで作っただけなんだけど。
今までの集計方法よりは、はるかに楽になるハズだ。


「おお~、すげえ。」


もともとパソコンに強くないって言っていた大野さんは、純粋に喜んでいる。

さっきまで、ふくれっ面だったのに。
そんなに目をキラキラさせて喜んでくれちゃってさ。

そのはしゃいでいる姿が可愛いなと思う。


「・・という訳なんで、今日からはもう少し早く帰れると思います。」

「うん。」


大野さんは安心したように、柔らかく微笑んだ。


定時の18時になった時、思い出したように大野さんが声をかけてきた。


「今日は何時までかかんの?」

「え・・と、19時すぎには帰ります。」

「じゃ、その頃また来るから。」

「え?あがってもらっていいですよ?」

「いいから。」


そう言って、大野さんはどこかに出かけてしまった。

変わった人だなあ。
別に待たなくてもいいのに。
あと1時間、何するつもりなんだろう。

そんな事を考えながらも、仕事を片付ける。
明日やる仕事まで確認し終わった所で、大野さんが戻ってきた。
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