番外編

玄関のチャイムが鳴ったのは、深夜12時を過ぎていた。

多分あの人だろうと見当をつけて、インターホンにも出ず扉を開ける。


「・・・ニノ~。」


俺の顔を見るなり、頬を少し染めた大野さんが抱きついてきた。

ほんのりとお酒の香りがする。
実家で花見って言ってたもんな。


「酔っ払ってます?」

「そんなに飲んでないよ。」


心外だと言わんばかりの表情で、大野さんは言った。

あれ。意外だな。
普段は割とハイペースで飲み続けて、すごい酔っ払ってる事が多いのに。


「そうなんですか?」

「うん。だって、ニノを抱きに来るつもりでいたから。」


さらっと言った大野さんは、カッコ良かった。

・・・ああ、もう。
突然スイッチが入るから、ホント困る。

俺の耳元に手を添えて、キスを求めてくる様子は、男らしくて色っぽくて
気のきいた文句ひとつ言えずに、俺はそのキスを受け入れた。


「・・・んっ・・っ・・・。」


玄関で甘いキスを繰り返す。
絡み合う舌の熱さで、お互いの欲望が高まっているのが分かる。

そのまま寝室へ行こうとする俺の腕を掴んで、大野さんは言った。


「あのさ、一つだけ聞いてもいい?」

「何ですか?」

「昼休み、松本くんと何話してたの?」

「ああ。・・気になりますか?」

「なるよ。すごく。」


大野さんは珍しく真剣な表情を浮かべている。

気にしてもらえて良かった。
あれだけして、何も言ってくれなかったらどうしようかと
ちょっと心配してたんだよね。


「・・潤くんに彼女が出来たから、良かったねって言いに行ってたんですよ。」

「あ、そうなの?」

「はい。まあ、あなたに意地悪したかったのもありますけどね。」

「どういうこと?」


キョトンとして、大野さんは首を傾げた。

意地悪されたっていう認識はないんだな。
何で俺がそんな事したのかなんて、この人に分かるはずないか。

さんざん悩んだであろう大野さんに免じて、俺は素直に教えてあげる事にした。


「俺、割と毎週金曜日を楽しみにしてるんですよ?」

「・・・うん。」

「そうは見えないでしょう?」

「うん。・・いや、すごく嬉しい。」

「だから、急に会えないって言われて、がっかりしたんです。」

「ごめん。」


情けないような、泣きそうな顔で謝る大野さんは可愛くて
俺を抱きに来るつもりでいたからと言った人とは別人のようだ。

どっちの大野さんも好き。
どんな大野さんでも好き。

重くなるから、あまり自分の想いを口にはしないけどさ。

「ふふふ。もういいですよ。こうして会いに来てくれたでしょう?」

「うん。」


顔をくしゃっとして、嬉しそうに大野さんは笑った。

手を繋いで、寝室へと向かう。
大野さんの手は、いつも暖かくて安心する。

ぎゅって握ると、握り返してくれるから
嬉しくなって、自然と頬が緩んでくるのを感じた。

寝室のベッドに腰掛けて、大野さんは言った。


「・・・俺、ニノのこと好きだよ?」

「知ってますよ。」

「どの位、好きか知ってる?」

「知ってますよ。・・・潤くんと俺が話すの見て、さんざん悩む位でしょ?」


恥ずかしいから、こんな言い方しかできないけど
こうやって好きって言ってくれるのは、本当に嬉しい。


「何で知ってんの?」

「ふはははっ。」


不思議そうな表情を浮かべている大野さんを見て、俺は吹き出してしまった。

もう、この人やっぱり面白い。
次の言葉が想像できないから、夢中になる。

仕事中もプライベートも、俺の頭の中は、いつも大野さんでいっぱいだ。


「何だよ。教えろよ。」


大野さんはそう言いながら、俺の上に伸しかかってきた。

間近で見るその顔や首筋が、妙に色っぽい。

あれ。
さっき切れたと思ったスイッチがまた入ったのか。
どこで切り替えしてんのかなあ。


「俺も同じ位あなたのことが好きだから、分かるんですよ。」


俺の言葉に大野さんは、幸せそうに微笑んだ。

それから、欲情した男の目をして
とんでもない色気を放ちながら言った。


「・・・朝まで離さないけど、文句言うなよ。」


朝までって。
俺の身体、持たないから。

そう思ったけど何も言わず、俺は大野さんに抱きついた。
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