O

「ああ、本当に綺麗ですね。」


満開のしだれ桜の下で、ニノが放心したように言った。

そこは住宅街の外れにある公園で、夜はほとんど人が来ない場所だ。
何年か前にたまたま見つけて、それから毎年桜の季節に訪れていた。


「な。凄いだろ?」


俺は缶ビールを開け、ニノと並んでベンチに座った。

ライトアップも何もないけど
月明かりの下のしだれ桜は、ただそれだけで幻想的な雰囲気で
ちょっと感動的だった。

隣に座っているニノの手を握ると、ニノも握り返してくれて
俺は最高に幸せな気分になっていた。


「この桜をニノと一緒に見れて良かった。」

「そうですね。」

「来年もまた見に来ようね。」

「・・・はい。」


頷いたニノの顔は赤くなっていた。

ああ、もう本当に好き。
好きで好きでたまらないこの気持ちは、どうしたらいいんだろう。


「あのさ、気分が盛り上がってるついでに言うけどさ。」

「それ、何のついでですか。」


俺の言い方がおかしかったのか、ニノは笑いながら言った。

まだ俺達は始まったばかりで
これから先、喧嘩することもあるだろうし
ニノを泣かせてしまうことも、俺が泣くこともあるかもしれない。

それでも、俺の幸せはニノと一緒にいることだと思うから
精一杯真面目な顔で、告げた。


「俺はずっとニノと一緒にいたいと思ってるよ?」


ニノは驚いたように俺を見て、それからゆっくりと呼吸して言った。


「・・・俺もそう思ってましたよ。」


照れくさそうな表情のニノは、やっぱり可愛くて
怒られるのは分かっていたけど、俺はニノに軽くキスをした。


「・・ここ、外ですけど。」

「誰もいないから、いいじゃん。」

「やだよ。あなた、止まんなくなるじゃないですか。」


案の定ニノに文句を言われ、俺は頬を膨らませた。

せっかくこんな綺麗な桜の下で、幸せな気分になってるのに
まあ、スイッチ入ると、止まんなくなるのも本当の事だけどさ。


「じゃ、今すぐ家に帰ろう。」


俺がベンチから立ちあがってそう言うと、ニノが驚いたように目を見開いた。


「は?もう花見はいいんですか?」

「うん。桜よりニノがほしい。」

「・・何なんすか、それ。」


ムードないなあと、ニノはブツブツ文句を言っている。

甘い気分に浸るのも悪くないけど、お互い照れくさいからさ。
これくらいの感じが一番いいと思うんだよな。

幻想的な雰囲気の桜に別れを告げて、俺達は家路を急いだ。
2/2ページ
スキ