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桜も満開になった頃、俺は帰り仕度をしているニノに声をかけた。


「今日、どうする?」

「どうするって、晩飯の事ですか?」

「いや、花見でも行かないかなあと思って。」

「いいですよ。」


念願の花見に行けることになり、俺は喜んだ。

仕事中は今まで通りだけど、俺達の関係は少しずつ変化していて
金曜日の夜から土曜日にかけて一緒に過ごす事が多くなった。

もちろんエッチな事もするんだけど、ニノといろいろな話をするようになって
何かそう、距離がとても縮まった気がする。


「じゃ、帰りましょうか。」

「うん。」


エレベーターまでの道のり。
販売促進部の前を通る時、俺は少し緊張する。

最近松本くんはニノを避けることを止めたらしく、席にいることが多い。


「・・・。」


ほら。
二人が一瞬目を合わせて、会釈を交わす。

それは言葉を交わすよりも、なんか分かり合ってるみたいで
もうヨリを戻すことはないと言われても、ちょっと嫉妬する。

俺は今まで人に執着しない方だったから
自分の中にこんな感情があったのかって、ビックリする。

エレベーターに乗り込むと、ニノが俺の顔を見ながら笑った。


「んふふ。まだ気になりますか?」

「え?」

「潤くんとのこと。」


あ、顔に出てたんだ。
恥ずかしいなあ。

俺は頭を掻いて、言葉を濁した。


「いや・・・まあ。」

「もっと嫉妬すればいいのにって思いますよ。」


優しい目をして、ニノは言った。

もっと嫉妬すればいい?
それって、どういう意味?

その言葉の意図する所が分からず、俺は首を傾げた。


「だって、それだけ俺に執着してくれてるって事でしょう?」

「そう・・・なのかな。」


実際、そうなんだけどさ。

声に出して認めると、俺の想いが重くなりそうで
ニノに引かれてしまうのが怖かった。


「あなたはあんまりそういうの気にしそうになかったから。」

「え、そう?」

「うん。ちょっと嬉しかったんですよね。」


照れたように言うニノは可愛くて。

何か言わなきゃ。
自分の想いをちゃんと口にしなきゃって、思ったけど
上手く言葉に出来ず、結局、俺は何も言うことが出来なかった。
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