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会議から戻ってきた大野さんは、俺の顔を見て嬉しそうに笑ってたけど
俺が櫻井課長の名前を出した途端、その笑顔がひきつった。


「大野さん。櫻井課長に資料渡しましたよ。」

「え、翔くん来てたんだ。」


ああ、本当おもしろいなあ。

大野さんは、俺が思った通りに反応してくれて
悪いとは思うんだけど、ついついからかってしまう。


「あの、ちょっと聞いてもいいですか?」

「な、何?」


ビクビクしている大野さんが可愛くて、笑ってしまう。

昨日は、あんなに男っぽくてカッコ良かったのに
明け方まで俺を離さなかったあの強引さは、どこに行ったんだって思う。

まあ、普段からあんなにカッコ良かったら、俺が困っちゃうけどさ。


「・・何か挙動不審ですけど?」

「え、あ、そんな事ないよ。」


大野さんがまだ誤魔化そうとするから、今日は知らないフリをしてあげる事にした。

そのうち、またこの話題でからかって遊ぼう。

そう思って、俺は心の中にコッソリと秘密をしまいこんだ。


「そうそう。借りてた鍵、返しますね。」


俺は大野さんの家の鍵を差し出した。

大野さんは、俺の手と鍵と顔を見比べて
開いていた俺の手をぎゅっと閉じさせて、鍵を握らせた。


「持っててよ。」


柔らかい表情でそう言った大野さんは、カッコ良くて
瞬間的に自分の顔が赤くなるのを感じて、俺は俯いた。

赤くなった自分が恥ずかしくて
何て言ったらいいのか分からない。

大野さんは、何も言わない俺の顔を覗きこむように見てから
すっと立ちあがって、俺に触れるだけのキスをした。


「ちょっと・・ここ会社。」

「ごめんごめん。」


恥ずかしくてどうしようもなかった俺を、大野さんはキスひとつで切り替えさせた。

結局、大野さんには敵わないってことだな。

笑っている大野さんに文句を言いながらも、そう思った。
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