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重い身体を引き摺って、俺は何とかシャワーを浴びて支度を整えた。

明るい所で見る大野さんの部屋は、おもしろかった。


「・・・何だこれ?」


リビングに備え付けられている棚の中には、よく分からない物が無造作に置かれていて
変な形の置時計とか
どこの国か分からない民族衣装の人形とか

大野さんの感性って不思議だな。
多分、何かが気に入ってるから置いてるんだろうけど。

それらを眺めていたら、あっという間に出勤する時間になってしまった。


昼休みから戻る人達に紛れて会社に入る。
大野さんは午後から会議だから、部屋には誰もいなかった。


「・・はあ、疲れた。」


出勤するだけで、体力を使ってしまった。
一息ついて、午前中のメールの確認をしていると、櫻井課長が顔を覗かせた。


「二宮くん、いる?」

「あ、はい。」

「この前頼んでた資料なんだけど。」

「ああ、出来てますよ。」


用意していた資料を渡すと、中身を確認して、櫻井課長はニッコリと笑った。


「ありがとう。助かったよ。」


普段だったら、少し世間話をして帰るんだけど
櫻井課長は何も言わず、ニコニコと俺を眺めている。

ああ、これは絶対バレてるな。
っていうか、大野さんもうバラしたのか。


「・・・櫻井課長。顔がニヤけてますよ?」

「ウソ。」


俺の言葉に、櫻井課長は慌てて口元を押さえた。
その分かりやすい反応に、思わず笑ってしまう。


「大野さんから聞いたんですよね?」

「え・・あ、うん。」


断定するように聞くと、櫻井課長は困ったような表情で頷いた。


「まったくあの人は。」

「君に怒られるの気にしてたから、怒らないでやってよ。」

「だったら、バラさなきゃいいのに。」

「はははは。」


ぶつぶつ文句を言う俺を見て、櫻井課長が楽しそうに笑う。

まあ、この人だから、別にバレてもいいんだけどね。
他の人に言いふらしたりもしないだろうし。

帰り際にふと優しい表情になって、櫻井課長が言った。


「二宮くん。俺で良ければ話聞くから、何かあれば言いなよ?」

「ありがとうございます。」


櫻井課長は、俺より大野さんとずっと親しいのに。
俺にそうやって言ってくれるのが嬉しかった。
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