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松本くんに部長室へ行ってもらって、1時間が過ぎた。

本当だったら、もうとっくに戻ってる時間だけど
まだ話してたら、気まずいしなあ。
いつ戻ればいいのかなあ。

非常階段に座ってぼーっとしていると、携帯電話の着信音が鳴り響いた。


「大野さん、どこにいるんですか?」

「えっと・・非常階段。」

「早く戻ってきて下さいよ。帰りますよ。」

「うん。」


普通の調子で話すニノの声に安心した。

松本くんがニノに何て話すのか俺には分からなくて
あんな男前にヨリ戻そうとか言われたら、迷うだろうなとか
そうなったらどうしようとか

二人が話す機会を自ら作ったくせに、俺は不安でいっぱいだった。


「お待たせ。」

「まったく・・なかなか帰ってこないから心配しましたよ。」

「うん・・いつ戻っていいか分からなくて。」

「潤くんはずいぶん前に帰りましたよ。」


部屋に戻ると、ニノはもうコートを羽織っていた。
俺も慌てて帰り仕度をして、部屋を出る。

ニノはいつものように小言を言っていたけど、その目は赤かった。

さっき泣いたんだろうな。
松本くんと何を話したんだろう。

そう思って、エレベーターの中で話題を振ってみる。


「・・俺、余計な事した?」

「いえ。ちょっと驚きましたけど。」

「そうだよね。」

「万が一ヨリを戻したら、あなたはどうするつもりですか?」


さっきまで感じていた不安が、現実のニノの声となって聞こえる。

ヨリを戻したら?
ニノと松本くんが再び付き合うようになったら?

俺は何もできないだろう。
二人が付き合っている時からニノが好きだったんだから
以前と変わらないとも言える。


「どうもしないよ。」

「ふうん。」


ニノは呟くようにそう言って、その話題を打ち切った。

え?
本当の所はどうなったの?

続きを聞きたかったけど、エレベーターが1階に着いてしまった。
その話題に触れないまま、駅まで歩いて電車に乗る。

ニノは時折どうでもいいような話をしてくるけど、俺はそれどころではなくて
さっきのヨリを戻したらというニノの声が、頭の中をグルグル回っていた。
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