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明日の仕事の資料を確認していると、控えめなノックの後、扉が開けられた。
大野さんが戻ってくるには早いなと思いながら、顔を上げる。


「よ。」

「・・・潤くん。」


そこには、片手を上げて、はにかんだような笑みを浮かべた潤くんが立っていた。

ちゃんとこうして顔を合わせるのは、別れて以来初めてだ。


「さっきさ、大野さんが俺の所に来たんだ。」

「え、そうなの?」

「うん。お前の事、吹っ切れてるなら、ちゃんと本人に言ってやってほしいって。」

「・・・。」

「でないと、お前と付き合えないからって。」

「あ~・・。」


昨日の今日で、大野さんがそんな行動に出るとは思わなかった。

思い立ったら行動派な人なのかな。
ちょっと意外な気もするなあ。

昨日の事を潤くんにどう説明していいのか分からず、俺は言葉を濁した。


「変な人だよな?あの人。」

「うん。本当に。」

「でも、好きなんだろ?」

「・・・うん。」


真っ直ぐな目でそう聞かれると、嘘が付けなくて頷いてしまった。

こうやって普通に話に来てくれたってことは、もう大丈夫なのかな。
それとも大野さんに言われたから、来ただけなのかな。

今、潤くんが俺の事どう思ってるのかなんて
あれから流れた時間が、どう潤くんを癒してくれたかなんて
俺に分かるはずもない。

潤くんは考えこんでいる俺を見て、優しく言った。


「俺はもう大丈夫だからさ。大野さんと付き合ってやれよ。」

「・・潤くん。」

「あとさ、ずっと謝りたかったんだ。ここで、酷い事して本当にごめんな?」


潤くんの言葉に、視界がぼやけて涙が頬を伝わった。

悪いのは俺なのに
本当に酷い事したのは俺の方なのに

潤くんの優しさに胸がいっぱいになって、涙が止まらなかった。


「・・俺の方こそ・・ごめんね。」

「泣くなって。」

「・・うん。」


潤くんは俺の側に来て、頭を撫でてくれた。

ふんわりと潤くんの香水が香ったけど
でも、それは以前とは違う香りで
そんな事で月日が流れたんだなって実感した。
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