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一晩かけて考えた方法は、直接本人に聞くというシンプルなものだった。


「ニノ。今日は後どの位?」

「後30分位かかります。」


翌日、ニノに残業の確認をした俺は、部屋を出て販売促進部に向かった。
松本くんの席の隣で作業していた社員に声をかける。


「松本くんって、もう帰った?」

「あ、いや、あいつ、この時間はサンプル室にこもってるんですよね。」

「ありがとう。」


そうか。
最近は帰る時も顔を見ないなと思っていたけど
ニノがフロアを通る時間帯に、席にいないようにしていたのか。

俺は少し離れた場所にあるサンプル室に向かった。
ノックをして扉を開けると、段ボールの中から商品を探している松本くんと目が合った。


「あ・・。」

「今、ちょっと話できる?」

「はい。」


部屋の中に誰もいないのを確認して、俺は中央にある机の上に座った。
松本くんは近くにあった脚立の上に、少し緊張した面持ちで腰掛けている。


「こんな事聞いて申し訳ないって思うんだけど・・。」

「何ですか?」

「ニノの事、どう思ってる?」


松本くんは不思議そうに俺を見た。
あれ。
上手く伝わらなかったかな。

これ以上何て言えばいいのか分からず困っていると、松本くんが口を開いた。


「あの、別れたの知ってますよね?」

「うん。それは知ってる。」

「じゃあ、何でそんな事聞くんですか?」

「いや、君がニノの事を吹っ切れるまで、俺とは付き合わないって言われたから。」


俺の言葉に、松本くんが目を丸くした。

こんな時に何だけど
近くで見ると、本当に整った顔してるなって思う。


「え?・・あんた達、まだ付き合ってなかったんですか?」

「うん。」

「とっくに付き合ってると思ったのに。」


独り言のように呟いて、松本くんは頭をくしゃくしゃと掻いた。


「君のこと、これ以上傷つけたくないからって。」

「ははは。馬鹿だな、あいつ。」


松本くんは笑っていたけど、その目には涙が浮かんでいて
それを見て、本当にニノが好きだったんだなと思った。
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