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大野さんが再び戻ってきた時には、どうしようかと思ったけど
俺の言葉にオタオタしている大野さんを見て、気持ちが落ち着いた。

帰ろうって引っ張ってくれたその手は、優しくて力強くて
思わず縋ってしまいそうだったから、一人で歩くって言い張った。

でも、休みなしで3回も抱かれたから、身体中が痛くて
やっとエレベーターに乗り込んだ時には、息が上がってしまっていた。


「・・・はあ。」

「ほら、ここなら誰も見てないから。」


ふいに大野さんが、俺の肩を抱いて言った。

何だ、急に。
誰も見てないから、何だって?

様子を窺うように見たけど、大野さんはそれ以上何も言うつもりはないらしい。
でも、その仕草から、どうやら体重を預けて休めと言っているようだ。

何だかんだ言って、この人も優しいな。
言葉が少ないから、伝わりづらいけどさ。


「・・・ありがとうございます。」


潤くんが今も傷付いて苦しんでるのに、俺だけ甘えちゃいけないって思ったけど
ほんの少しの間、そのまま大野さんに体重を預けた。


表に出ると、大野さんは道行く車を眺めて、タクシーを拾おうとしていた。
普通に電車で帰るつもりだった俺は、慌てて声をかける。


「大野さん、タクシーで帰るんですか?」

「え、電車で帰るつもり?」

「そのつもりでしたけど。」

「無理だって。どうせ同じ方向だし、一緒に乗ってこうよ。」


ちょうど止まってくれたタクシーに、強引に押し込められる。

なんか前もこんな事あったなあ。
飲み会の時と違うのは、大野さんがシラフだって事くらいか。

車内ではお互い何も話さなかった。

でも、別に気まずい空気ではなくて
何も話さなくても、自然で心地よかった。
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