O

しばらく沈黙が続いた。

やっぱり、俺のせいなのかな。
何かで飲み会のキスがバレちゃったのかな。
どうしよう。どうしよう。

不安に駆られている俺を見ながら、ゆっくりとした口調で、ニノが言った。


「・・・だったら?」

「え・・と、ごめん。」


俺のせいだと認められても、どうしていいか分からず、とりあえず謝った。
途端にニノがいたずらっ子のような表情になる。


「嘘ですよ。そんな訳ないでしょう?」

「え・・そうなの?」

「それとも、なんか心当たりがあるんですか?」

「え、いや、あるような、ないような。」


忘れたことにしている記憶を、思い出した方がいいのか
でも、そうすると、ニノを困らせてしまいそうで
どうしようか悩んでいると、ニノが笑い出した。


「ふははは。・・・今は思い出さなくて、いいんですよ。」

「え、あ、うん。」


俺があの時の告白やキスを覚えてるっていうことを、ニノは気付いている。
それだけで、今は十分だった。

これ以上話を聞くのをやめて、俺はニノに向かって手を差し出した。
何って表情で、ニノが見上げてくる。


「帰ろう?」

「・・一人で帰れます。」

「立てないだろ?」

「・・立てますよ。」

「グズグズしてると、抱えていくぞ?」


ニノは頑なに首を横に振っていたけど
おどけてそう言うと、やっと俺の手を取った。

その手を引っ張って立たせてやる。
かなり身体が辛いようで、ちょっとした動作にも顔を顰めている。


「・・イテ・・・。」

「本当に抱えてエレベーターまでいこうか?」

「冗談やめて下さい。そんな事されたら、会社に来れなくなりますよ。」

「ははは。」


いつものニノの言い方に、安心した。

もう遅い時間だから、他の部署もほとんど帰っていて
誰もいないから支えてやるって言ったのに、ニノが一人で歩くって言い張るから
エレベーターにたどり着くまで、かなりの時間がかかった。
2/2ページ
スキ