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ニノが部屋で何をしていたのか見当はついた。

普段とは違う色っぽい声がまだ耳に残っている。
でも、それは今にも泣き出しそうな声にも聞こえて、俺は帰る気にはなれなかった。

松本くんが酷い事するとは思えなかったけど、なんか不安で心配で
二人が一緒に出てくれば、大人しく帰ろう。

そう思って、会社の前の喫茶店で時間を潰していた。


それから1時間後、端正な顔立ちを辛そうに歪めた松本くんが出てきた。
ニノが一緒ではない事やその苛々している様子にますます不安が募る。

俺は慌てて席を立ち、会社に向かった。
そのまま部屋に入る勇気はなく、扉の外から恐る恐る声をかける。


「・・・ニノ?まだ、いる?」

「・・帰ってくれって言いませんでした?」


刺を含んだ言い方ではあったけど
とりあえず声が聞こえて、俺はホッとした。


「そうなんだけど・・カバンとか、置いてるから。」

「ああ・・・。」


ニノの盛大なため息が聞こえた。

本当は財布や携帯は持ってたから、帰ろうと思えば帰れたんだけど
ちゃんと無事だって顔を見て安心したい。


「・・・入るよ。」


しばらく待ったけど何も言われなかったから、俺はゆっくりと扉を開け中に入った。

ニノは扉のすぐ近くの床にペタリと座り込んでいる。

かろうじて服は着ているけれど
ニノの全身から、まだ強烈な色気が放たれていて、俺は思わず目を逸らした。


「・・職場を私用で使って、すみません。」


座った姿勢のまま、ニノは頭を下げた。


「いや、それはいいんだけど・・平気?」

「自業自得なんで・・平気です。」

「何か・・あった?」

「ちょっと別れ話が拗れただけです。」


何でもないことのように、ニノは言った。

涙の跡がくっきりと残ってるから、泣いていたハズなのに
このひねくれ者は、なかなか本当の気持ちを俺に教えてはくれない。


「え、別れたの?」

「はい。」

「何で?」

「・・それは、あなたには関係ないでしょう?」

「・・・俺のせい?」
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