M

ニノが俺の家にやって来たのは、土曜日の深夜だった。
突然のことに、不安が沸き起こる。

悪い予感。
飲み会に行くって言われた時から感じていた胸のざわつき。
それらを飲み込み平静を装って、ドアを開ける。


「急にどうした?」

「ごめんね。遅くに。」

「いや、それはいいんだけど。」


ニノは玄関で靴を脱ごうとしない。
しばらく下を向いていたが、ふいに俺の顔を見て言った。


「・・・潤くん。別れよう。」


落ち着いた声だった。

ああ、悪い予感的中。
こういう予感に限って、当たるんだよな。

ニノは用事はそれだけと今にも帰ってしまいそうで
俺は慌ててニノを引き止めて、部屋に入るように促した。

本当に帰るつもりだったのか、ニノは諦めたようにため息をついた。

明るいリビングには、賑やかなテレビの音が響いていて
今の俺達の空気には、まるでそぐわない。

そのテレビを消すと、部屋の中はしんとした静けさに包まれた。

ニノをソファに座らせて、俺は話を切り出す。


「何で急に別れ話?」

「・・こんな気持ちのまま、もう付き合えない。」


目を伏せたままニノは言った。

こんな気持ちって何だよ。

大野さんに惹かれているのは、知っていたけど
それでも俺の事が好きだと、ちゃんと言ってくれたから
それだけでいいって思えたのに。


「飲み会で何かあった?」

「何も。」


俺の問い詰めるような口調にも、ニノは静かに答える。
その冷静さに、腹が立った。


「何もないわけ、ないよな。突然そんな事、言いだすんだから。」

「・・何もないよ。」

「俺と別れて、大野さんと付き合うのか?」

「・・そんな事、しないよ。」

「じゃあ、何で別れる必要があるんだよ!」

「・・・。」

「嫌だ。お前と別れるなんて、考えられない。・・俺の事、嫌いになった?」


ニノの肩を掴んで、至近距離で目を合わせる。

いつもなら、その目はキラキラしてて、感情豊かに気持ちを表すのに。
今日は、何を思っているのか、さっぱり俺には分からなかった。
1/2ページ
スキ