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その時の俺は、卑怯だった。

泣いている俺を拒めないって分かっていて、ニノを後ろから抱きしめた。

初めて触れるその身体が、予想以上に華奢な事に驚く。

髪も耳も首筋も、ニノの全てがどうしようもなく好きで
松本くんと付き合ってるのも知ってるけど、その想いは止まらなくて

気付いた時には、乱暴にニノを振り向かせ、キスをしていた。


「んっ・・・。」


驚いたニノが目を丸くしている。
俺は遠慮なく舌を差し入れ、ニノの舌を捕らえた。

その舌は侵入した俺を押し戻すように動くけど
拒否されてるなんて感じないほど、甘い舌に夢中になった。


「・・・っ・・・。」


時折もれる吐息や、色っぽく変化した瞳にとんでもなく興奮する。

若い頃なら、このまま押し倒してたな。
そんな事したって虚しいだけだから、もうしないけど。

ニノの舌を味わいながら、頭の片隅でそんな事を考える。
十分堪能してから唇を離すと、ニノは怒ったような表情で俺を睨みつけてきた。

やっぱ怒ってるよね。
そりゃ、当然か。

俺はニノから離れて、頭を下げた。


「ごめん。調子にのった。」

「・・・帰ります。」


ニノは淡々とそう言った。

さっきのキスについて何も文句を言われないのが、本当に怖い。
明日以降、口きいてくれなくなったらどうしようなんて
今さらながら不安になる。

俺は慌てて玄関の扉を開けようとしているニノに声をかけた。


「ニノ。」


ドアノブに手をかけたまま、ニノが動きを止めた。
その背中に向かって、俺は話しかける。


「あのさ、俺すごい酔ってて、明日になれば、今日の事は覚えてないし。」

「・・・。」

「さっきのキスがニノの恋人にバレるような事は絶対ないから。」

「・・・。」

「だから、ニノも忘れて?」

「・・分かりました。」


ニノは冷たい低い声でそう言って、振り返りもせず出て行った。
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