N

そろそろ一次会も終わる頃、俺は店の外のトイレに抜け出した。

二次会に流れる前に帰りたいな。
少し火照った頬を夜風で冷やしながら、どうやって帰ろうかと考える。

店の入り口まで戻って来ると、櫻井課長が大野さんを支えながら出てきたところだった。


「あ、二宮くん。ちょうど良かった。」

「何でしょう?」

「君さ、二次会行かないだろ?」

「できれば帰ろうかと思ってます。」

「タクシー代払うからさ、大野さんの家回って、帰ってくれない?」

「え?」

「みんなが注ぎに来るから、早いペースで飲んじゃったみたいなんだよね。」


櫻井課長は、ふにゃふにゃしている大野さんを見て苦笑した。

いや、まあ。
二次会前に帰れるなら俺はいいんだけど。

返事をしない内に、俺は大野さんと一緒にタクシーに押し込まれ、一万円を渡される。
運転手さんに大野さん家の住所を告げて、櫻井課長は手を振った。


「ごめんね。じゃ、よろしく。」

「あ、あの櫻井課長。」

「何?」

「相葉さんの事、お願いします。俺の分まで飲んでくれてたから。」


テンションが上がりまくっていた相葉さんを思い出して、俺は言った。
楽しそうなのはいいんだけど、無事に帰れるのかちょっと心配になる位だった。


「ちゃんと送っていくから、大丈夫だよ。」


ふわっと笑って、櫻井課長は言った。
その優しい表情に俺は安心して、頭を下げた。

動き出した車内が静かになると、大野さんは目を閉じた。
俺にもたれかかるようにして寝ている。
酔っぱらいの大野さんは温かくて、気持ち良かった。


「お客さん、もうすぐ着きますよ。」


ぼーっと窓の外を眺めていた俺は、運転手さんの声にハッとした。
大野さんの肩を揺すって声をかける。


「大野さん。起きてください。」

「ん?・・ん~。」

「着いたみたいですよ?」

「ん。ありがと~。」


俺を認識しているのかいないのか分からないまま、大野さんはタクシーを降りた。
ふらふらしながらマンションの入り口に向かう。


「あ。」


大野さんが入り口の階段につまずいて転んだのが見えた。
起き上がる気配がない。

・・・・ああ、もう。


「すみません。俺もここで降ります。」


俺は料金を払って、タクシーを降りた。
4/5ページ
スキ