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「ニノ~。久しぶり。元気?」


エレベーター前が騒がしいなと思っていたら、相葉さんが駆け寄ってきた。

外回りから戻ってきたばかりなのか、コートを着てカバンを抱えている。


「まあ、普通です。相葉さんは、相変わらずですね。」

「うん。元気だよ。」


営業課は部長室の手前にあるから、必然的に少し一緒に歩くことになる。
取引先で起こった笑い話をしていた相葉さんが、ふいに俺の顔を見て言った。


「そういや松潤とも仲良くやってる?」


相葉さんは唯一潤くんとの関係を知っている人だけど
このタイミングで聞かれた事に、少し違和感を覚えた。


「何で?」

「えっ?」

「何で、そんな事聞くの?」


突っ込んで俺が聞くと、やばいって顔をして誤魔化そうと必死になっている。

本当に隠し事ができない人だな。
まあ、それはこの人の良い部分でもあるんだけど。


「潤くんには言わないから、言ってみ?」

「うん。あのさあ・・・。」


促すと、やっと相葉さんは白状した。

潤くんが大野さんを呼び出してた所に遭遇したと
真剣な顔をしてたから、ちょっと気になっただけだと

本当にそれだけだからと、相葉さんは繰り返し言った。


「それ、いつの話?」


フル回転で考え事をしながら、相葉さんに確認する。

その日は、珍しく大野さんが俺が終わるって言った時間に戻ってこなかった日で
電話の声も少しいつもとは違ってて、心配したのを思い出した。

翌日は普段通りだったから、何かあったなんて思いもしなかったけど
考えられるのは、潤くんが大野さんに何かを言ったって事だけだった。

潤くんと二人の時は、大野さんを話題に出さないようにしてたし
できるだけ意識させないよう頑張ってたつもりなんだけどな。


「ニノってば。」

「ん?」

「怖い顔してるよ?」

「考え事してただけだって。」


心配そうな表情の相葉さんに向かって、話を打ち切るように微笑んでみせる。

ごめんね、相葉さん。
今は相手できないや。

まだ何か言いたそうな相葉さんと別れて、俺は部長室に戻った。
幸い、今日大野さんは出張でいない。

俺は早々に仕事を片付けて、潤くんの家に向かった。
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