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「え、俺?」

「・・ちょっと付き合ってもらっていいですか?」

「う、うん。いいよ。」


真剣な眼差しの松本くんを断れなくて、少し不安になりながらも返事をする。

何の話だろう。
今まで直接話をした事なんてないのに。


「じゃ、相葉ちゃん。またね。」

「・・はい。お疲れさまでした。」


心配そうな相葉ちゃんに手を振って、場所を移動する。
松本くんの後を付いて行くと、使っていない会議室に入っていった。


「突然すみません。大野部長。俺、販売促進部の松本っていいます。」


部屋に入ると、松本くんは律儀に頭を下げて自己紹介をした。

派手な外見とは違って、真面目な子だなあ。

俺より背の高い彼を見上げながら、そう思う。


「知ってるよ。」

「え?」

「すごい男前がいるって言ったら、翔くんが教えてくれたから。」


そう言うと、松本くんは照れたように笑った。
少し緊張がほぐれたようだ。

俺は会議室の机に腰掛けて、足をブラブラさせながら話を促した。


「それで?」

「あ・・あの、俺、噂を聞いて、確かめたかったんです。」

「噂?」


松本くんの目に強い意志が浮かんだ。

何の話だか分からず、俺は首を傾げる。

彼の表情から、良い噂じゃないって事だけが分かった。


「大野部長が前の秘書に手を出して、妊娠させて辞めさせたって。」


すうっと息を吸い込んで、一息に松本くんは言った。


「ぶ。何それ。」

「本当に失礼な事を聞いてると思うんですけど。でも、どうしても気になって。」

「何で?」


俺と接点のない松本くんが、そこまで気になった理由。

そっちの方が俺は知りたかった。
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