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「ニノ。あとどれ位で終わる?」

「え~と、30分位です。」


定時の18時になると、毎日同じ会話が繰り返される。
ニノの返事を聞いて、俺は部屋を出た。

もう待ってなくても残業したりしないって、ニノは言っていたけど。
何となくニノの終わりを待ってから、一緒に会社を出るのが習慣になっていた。

それでも、一緒に電車に乗れる回数はかなり少ない。
ニノは割と頻繁に例のあの人の所へ行っているようだし。
本屋に寄るとかCD見に行くとか言って、別の方角へ行ってしまう事も多い。

俺は仕事から離れたニノと話をするのが楽しみなのに。

仕事中のニノはやっぱり俺とは線を引いていて、キリッとしているんだけど。
帰りの電車では、大笑いしたり、俺をからかってきたり。
少し距離を縮めてくれる感じが、とても心地よかった。

今日はどうだろうな。

ぶらぶら歩いていると、営業課の相葉ちゃんに声をかけられた。


「あ、大野さん。もう終わりですか?」

「うん。ニノの終わり待ち。」


ニノという名前を聞いて、相葉ちゃんの顔が綻んだ。
そういや仲良いって言ってたもんな。


「あいつ、ちゃんと働いてます?」

「働いてるよ。働きすぎるから監視してんの。」

「ははは。うん。そんな所、あるかも。」


ぱあっと華やぐような相葉ちゃんの笑顔を見て、俺まで嬉しくなる。

相葉ちゃんは、人が好きだから、人に好かれるんだよ。
そう翔くんが言っていたのを思い出した。

それからニノの昔の話とかを聞いていたら、ふと相葉ちゃんが目を上げた。


「あれ、松潤。」

「・・よ。」


振りかえると、販売促進部の松本くんが片手を上げて立っていた。

ニノとよくお昼を食べているカッコイイ子だ。

俺は何故だか少し緊張した。


「どうしたの?珍しいじゃん。」

「あ~、ちょっと用事。」

「何、何?」

「相葉ちゃんじゃなくて・・。」


松本くんは気まずそうに、俺の方をチラッと見た。
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