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「あ~、今日晩飯どうすっかなあ。」


窓の外を眺めながら、独り言のようにニノが呟く。
それは誘えってことなのかなあ。

さっきまでの暗い気持ちを押しこんで、俺は明るく言った。


「俺は、ラーメン食って帰るかな。一緒に行く?」


住んでる所も隣駅だし、いつかご飯に誘おうと思ってたんだけど。
恋人の所に行くからと言われたり、友達と飲んで帰るからと言われたり。
俺自身が用事があったりで。
今日までなかなか誘う機会がなかった。


「ご馳走してくれるんですか?」

「ラーメンならね。」

「ははは。限定ですか。」


ニノは笑ってたけど、一緒に行くとは言わなかった。


「ねえ、ラーメン食ってこうよ。」

「ん~。俺、今日ラーメンな気分じゃないんですよね。」


しつこく誘うと、困ったようにニノが言った。

困らせたい訳じゃないし。
ラーメン以外の物でも、きっと断られるな。
何となくそう思って、俺はそれ以上言うのを止めた。

断られた事に少し落ち込んだけど、表情には出さない。

何故だか自分の気持ちを隠すのが、俺は割と上手かったりする。
普段から、眠そうで何考えてるか分かんないって言われるからね。

適当な笑い話をしている間に、降りる駅に着いてしまった。
ニノが降りるのは、もう一つ先の駅だ。


「じゃ、俺降りるから。ニノ、また明日。」

「はい。お疲れさまでした。」


軽く手を振って、電車を降りる。
振り返ると、電車の中のニノと目が合った。

ニノはいつもと違う切なくて憂いを含んだ目で俺を見ている。

さっきまで普通だったのに、何でそんな目で俺を見るんだよ。
恋人がいるのに、何を俺に求めてるんだよ。
一体、俺はどうしたらいいんだよ。

普段は奥底に仕舞い込んでいる想いが溢れてきて、いっぱいになる。

でも、ニノに聞いたって何も答えてくれそうにはなかった。


俺は電車が発車するのを待って、改札への階段を上がる。
駅から家までは歩いて10分位。
もうすっかり辺りは暗くなっていて、冷たい空気に刺すような細い月が浮かんでいた。
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