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「秘書課の二宮です。」


俺は緊張しながら、部長室をノックした。
だけど返事がない。
呼ばれたハズなのにと思い、恐る恐るドアを開けてみる。

そこには
机に突っ伏して寝ている大野部長の姿があった。

何だ、この人。
無防備なその姿に、俺の緊張は吹っ飛んだ。


「・・くくっ。おもしろいなあ。」


俺はツカツカと部長に歩み寄り、その肩を揺すった。


「起きてください。」

「ん・・う~ん・・。」


薄目を開けて俺の姿を確認すると、大野部長は大きく伸びをした。


「本日から配属されました秘書課の二宮と申します。
大野部長、これからよろしくお願いします。」

「うん。・・あのさあ。」

「はい?」

「大野部長って呼ばれるの好きじゃないんだよね。」

「は?」

「何かエライ人みたいじゃん?」


彼はふにゃふにゃした笑顔を浮かべて言った。

いや、偉い人だろ、あんた。
ツッコミどころ満載のこの人に、俺はウズウズしている。

でも、ほぼ初対面でしかも部長にツッコミを入れることなんてできない。
何とかポーカーフェイスで、話を続ける。


「では、何て呼べば?」

「大ちゃんでいいよ。」


もうホント無理。
俺は我慢の限界を向かえ、笑い転げてしまった。


「・・もう、勘弁してもらえます?さっきから。」

「ん?何のこと?」


彼は俺が笑っているのを、楽しそうに眺めている。
ああ、ド天然だ、この人。


「まあ、いいです。・・・じゃ、大野さんでいいですか?」


大野さんは、大ちゃんでいいのにとブツブツ言いながらも、いいよと頷いてくれた。

これから楽しくなりそうだなあ。
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