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モデルの話があってから、3日後に櫻井課長が大野さんの部屋にやって来た。
ちょうど大野さんは会議に出ていて不在だったから、直接撮影データを受け取る。


「じゃ、二宮くん。資料お願いできるかな?」

「ずいぶん早かったですね。」


モデル探しに駆け回っていたみたいだから、俺はその早さに少し驚いた。


「うん。ちょっと職権乱用した。」

「ははは。ひどいですね。」

「俺もそう思う。」


櫻井課長は情けないような表情を浮かべて笑った。

職権乱用って面白いな。
誰がモデルになったんだろう。

いつまでに資料が必要かを確認すると、1週間後だと言う。
急いでいたみたいだから、もっと早く必要かと思ってたけど。

不思議に思ったから、そのまま声に出して聞いてみた。


「割と時間があるんですね。もっと急ぎなのかと思ってました。」

「そう?土日挟むし、あんま君が作業する時間ないかと思って。」


俺の作業時間を考えて、急いでくれたって事?
そんなの気にしなくてもいいのに。


「うわ。優しいなあ。」


そう言うと、櫻井課長は照れたように笑った。


「俺が優しくないみたいに言うんじゃないよ。」


声のした方を見ると、会議から帰ってきた大野さんがいた。
扉を開けたまま、ふくれっ面をしている。
絶妙なタイミングに櫻井課長と二人で吹き出してしまった。


「ふはははっ。」

「はははっ。大野さん、タイミング良すぎです。」


大野さんの行動は、高い確率で俺のツボにはまる。
本人は面白くしてるつもりはないんだろうけど。

二人で笑われた事にムッとしたのか、大野さんはさらに口を尖らせた。

ああ、ホント可愛いなあ。
これで、俺より3つも年上なのが不思議だ。

櫻井課長になだめられている大野さんを見ながら、俺はパソコンの前に戻った。
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