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「翔くんがモデルやって、自分で撮影すればいいじゃん。」

「絶対やだ。」


俺は慌てて首を横に振る。

顔は映ってなくても、取引先に自分の身体を見られるのは勘弁願いたい。

俺の反応を見て、面白そうに大野さんは言った。


「じゃ、他にモデル探さないとね。」

「え~。」

「俺もやだからね?・・・ちなみに、うちのニノも貸さないよ。」

「ちぇ。」


頼む前に二人に断られてしまった。

ああ、誰もいなかったら俺がモデルか。
絶対に誰か探そう。

俺は強い決意で、部長室を後にした。


モデルと考えて思い浮かんだのが、販売促進部の松本くんだった。

彼は男前だし、写真映えもするだろう。
まあ顔は映らなくてもいいんだけど。

俺はその足で販売促進部に向かった。


「松本くん。ちょっといい?」

「櫻井課長?どうしたんすか?」


驚いたように松本くんは立ちあがった。
あまり大声では言えないから、自動販売機のあるコーナーまで来てもらう。


「あのさ、モデルやってくれない?」

「は?」

「ちょっと事情があってさあ。」


俺は今までの事情を簡単に説明する。
時々相槌を打ちながら、松本くんは聞いてくれた。


「・・はあ、事情は分かりましたけど。」

「じゃ、お願いできる?」

「俺、身体のバランス的に、下着モデルには向かないですよ?」

「え、そう?」


松本くんにそう言われ、身体をジロジロと見てしまった。
俺よりほんの少しだけど背も高いし、バランス良さそうなんだけどなあ。


「断る口実じゃなくて。俺よりもっと足が長くて細い方が映えるでしょ?」

「そんな奴いねえよ。」

「おたくの課にいるじゃないですか。」


松本くんはニヤッと笑った。

うちの課にいたっけ、そんな奴。
思い浮かべて見たけど、松本くんよりモデルに向いてそうな奴は見当たらない。


「誰のこと?」

「相葉ちゃん。」

「相葉ちゃん??」


意外な名前を言われて、聞き返してしまった。
年中ハイテンションで、賑やかで、細かい仕事が苦手で、いつも外回りに行きたがる。
でも、その明るさと人懐こさで、新規の契約を取ってくるのが上手かったりもする。

そういやモデル体型か。
撮影中、大人しくしてくれるかなあ。
う~ん。そこが問題ってどうなんだろう。
まあ自分がモデルになるよりは、よっぽどマシか。

そう思い、俺は相葉ちゃんに連絡を取ることにした。
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