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「あなたは、誰ですか?」


目の前にいる人は大野さんだと思っていたのに、大野さんじゃない。

大野さんに似てる人、だ。

いや、似てるなんてもんじゃない。

だって
この俺が気付けなかった。


「さあ?」

「とぼけるなよ。」

「・・・とぼけてるつもりはないんだけどね。まあ、少なくともお前の大野ではないよ。」


肩を竦めて諦めたように笑う彼は、やっぱり大野さんに似ていて
少しドキリとしてしまった自分に苦笑する。


「その歯。その衣装。」

「え?」

「吸血鬼だったりする?」

「なんで分かるの?」


目を丸くして驚いたような反応に、こちらが驚く。


あー、もしかして中身も似てるのか?


・・・ってか、吸血鬼って
これ、夢かなあ。

いったい、どうなってんだろう。

混乱する頭のなか半分と

ここで俺がパニックになったところで、事態が好転するとも思えないし
仕方ないから対応するか

と、冷めた判断をするもう半分。


「で、俺をどうしたいのさ?」

「・・・。」


答えに詰まった吸血鬼は、ぽりぽりと頭をかいた。

何というか
・・・分かりやすいヤツ。


「俺の血、飲みたいの?」


ちょっと面白くなってきて、誘うように言うと
吸血鬼の喉がゴクリと音を立てた。


「い、いいのか?」

「いいけどさ、別に。献血するくらい?それとも、俺、死んじゃう感じ?」

「死なないよ。って、自分の命をどうでもいいみたいに言うんじゃないよ。」


俺の血を吸いたいっていう吸血鬼に、命を大事にしろと説教された。


ははっ。

変なの。


「そ。なら、いいよ。」


軽く聞き流して頷くと、吸血鬼が呆れた表情で呟いた。


「変なヤツ。」

「あんたに言われたかないけど。」

「そりゃ、そうか。」

「ふふ。」


二人で顔を見合わせて、笑った。


ふと熱を帯びた吸血鬼の手が俺の頬を撫でて

ああ。

やっぱり綺麗な手だな。

そう思っている内に意識がぼんやりとしてきた。


「少しだけ、もらうよ。」


耳元で囁かれて
そのまま耳たぶを舐められた。


大野さんじゃないのに
その吐息や舌は気持ちよくて


「・・んっ・・・。」


思わず息を詰めると、耳たぶにチクリと痛みが走った。


あれ。

耳なのか?

イメージ的に首筋かと思ってたんだけど

ぼんやりしたままの頭でそんな事を考えていたら
吸血鬼がコクリと一度だけ喉を鳴らして、身体を離した。


「大丈夫か?」


心配そうに声をかけてくれる感じは、無茶して俺を抱いた後の大野さんみたいで
うっかり嬉しくなってしまった。





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