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あの日から
俺と智の関係は、ほんの少しだけ変化した。
「今日、寄っていい?」
週に何回か、智が泊まりに来るようになった。
仕事で遅かったりしても、持ち込んだ画材セットで何か描いているか
俺のパソコンでゲームをして、最高得点の更新に熱を入れてたりする。
「いいけど。人と飯食う約束してるから、ちょっと遅いよ?」
「うん。別にいい。」
俺は、と言えば
人と飯食いに行く回数が減った訳じゃないけど
男にしろ女にしろ、二人っきりという状況は、極力避けるようになった。
「・・・なんつうか、熟年夫婦みたいだな。」
「本当、そうだね。」
「実は亭主関白だけど、普段は嫁の尻にしかれてる旦那って感じ。」
「ふははっ。」
他の三人が好き放題言っているのを聞き流して
智のネクタイを直してやる。
年末年始は、スーツで撮影ってことが多いんだけど
この人は自分で直さないから、いつの間にか俺の役目になってたりする。
「あご、出てる。」
「出してんだよ。」
今、相葉さんがどんな気持ちなのか考えて
一瞬、手を出すのを躊躇したけど
どうあっても智を譲ることなんてないから、気にしないことにした。
「行ってらっしゃいのチューは?」
外野の夫婦という単語に反応したのか、智が変な小芝居をしかけてくる。
・・・ったく。
面白いなあ。
「馬鹿。俺も行くんだぞ。俺にチュー寄越せや。」
「ん?・・・あ、そう?」
「わ・・・・嘘。冗談だって!」
「はははっ」
完全に悪ノリしている智に襲われそうになり、慌てて潤くんの影に隠れた。
「全く・・・何やってんだよ。」
溜息を吐いた潤くんに睨まれて、二人して肩を竦める。
「ホント、昔から変わらないね。」
「リハの時も、二人して遊んでばっかで、さ。」
呆れながらも
皆が暖かい目で見守ってくれているのが分かる。
智と一緒にいる。
その選択が正しいのかどうかは、正直今も分からないけど
みんなが
たくさん心配してくれた。
たくさん気遣ってくれた。
その暖かさは、忘れないでいようと思う。
ふと視線に気づいて、顔を上げると
智がとんでもなく優しい目で俺を見ていたから
・・・これで、よかったのか。
何だかとても幸せな気分になって、こっそり微笑み返した。
fin
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