N


「ニノに出来る一番の親孝行は、さ。幸せでいることだよ。」

「・・・。」


一番の親孝行は、幸せでいること。


相葉さんの言葉が魔法のように俺の心を溶かしていく。

自分を傷付けて
智を傷付けて
たくさんのトゲでいっぱいになって、身動き取れなくなっていた俺の心。


「そんな事も分からないなんて、やっぱりちょっと抜けてるよね?」


クスリと笑われて、やっと言い返せる元気が出た。


「・・・うるせ。お前に言われたかないよ。」


いつもの文句に安心したように
相葉さんは腕を解き、俺の涙を拭いてくれた。


「さて。では、相葉サンタからクイズです。」

「・・何だよ、急に。」

「アナタの好きな人が隠れているロッカーは、どこでしょうか?」

「はあ?」


俺の睨みに動じることなく、相葉さんは変なテンションで喋り続ける。


・・・ってか、マジかよ。

最初から、仕組まれてたなんて


「見つけたアナタは、好きな人と結ばれます。」


そう言った瞬間の相葉さんの目が、淋しそうに光って
それを見て、やっと智への想いは本当だったんだなと思った。


「ちょっと、ちゃんと参加してよ。」

「・・・相葉さん。俺。」

「うん。いいの、俺は。二人が幸せでいてくれたら、それで。」


とびっきりの笑顔を残して、相葉さんは帰っていった。


あの優しい人は
智のために
俺のために

自ら道化役になってくれた。


あの人の心情を考えると、申し訳なさすぎて
俺は『ごめん』と謝ることも『ありがとう』と礼を言うことも出来なかった。







 
4/4ページ
スキ