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こんな顔を見られたくなくて
窓の外に流れる光をぼんやりと眺める振りをしていると
「・・・あ~、もう!」
運転席のニノがイライラしたように呟いて、ウィンカーを出した。
車はインターチェンジへと入っていき
駐車場に止まるのかと思えば、そうではなく
隣接しているホテルの駐車場へと吸い込まれた。
「え?」
「・・・普通のホテルですよ。渋滞で動けない時とかに使うんだって。」
「へえ。」
ニノはさっさと車を降り、フロントへと向かっている。
・・・一体、ニノはどういうつもりなんだろう。
どうして、ホテルへ?
まだ、何も伝えていないのに
まだ、何も始まってないのに
フロントから少し離れた所で立ち止まっていると
手続きを済ませたらしいニノがエレベーターの方向を指さした。
俺は軽く頷いて、ゆっくりと歩いていく。
「明日は、休みなんでしょう?」
「うん。お前は?」
「俺も休みです。」
「・・・泊まったりして、大丈夫なのか?」
こんな事を聞きたい訳じゃない。
だけど、気になるのは当然だ。
ニノの生活を・・・家庭を壊したくはない。
「・・・まあ、何とかなるでしょ。」
口元を少しだけ上げて、シニカルに微笑む。
そんな笑い方も昔のままで
甘酸っぱい想いで胸がいっぱいになる。
エレベーターは最上階で止まり、俺はニノの後に続いて部屋に入った。
扉の向こうには、大きなダブルベッド。
・・・何で、ダブル?
「・・・喫煙できる部屋は、ダブルしか空いてなかったんですよ。」
俺の疑問に気付いたように、言い訳するニノの耳が赤くて
あれ。
照れてんだ?
・・・可愛いな。
そう思ったら、自然と手がニノに伸びていた。
「お・・おの・・さん・・・。」
抵抗する隙も与えず
後ろからギュッと抱きしめて、首筋に顔を埋める。
「ごめん・・・・ごめん・・・。」
一度でも触れたら、止められないと分かっていた。
俺は、そう
ワガママな人間だから
自分の好きな相手には、自分だけを好きでいてほしいし
自分が会いたい時には、一緒にいてほしい。
隠れた恋ができるほど自分が器用じゃないことは、・・・よく分かっていた。
「・・・泣くほど俺が欲しいの?」
静かな声でニノが言う。
言われて初めて、自分の頬を流れる液体に気が付いた。
「あ・・・れ?」
ニノを抱きしめていた腕を外して、涙を拭う。
くるりと振り向いたニノは、じっと俺を見ていて
何か言おうと思ったけど
何か言わなくちゃと思ったけど
その目が何も言うなと言っているようで
「・・・・。」
「・・・・。」
俺は無言のまま
今度は正面からニノを抱きしめて、唇を奪った。