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「もう、さあ。あんた、何なんだよ。」
「何が?」
「何で、俺に手出してくんの?誰かに頼まれてんの?」
俺にしてみれば、さっぱり訳が分からない。
堅気の医者が、わざわざ二代目の俺に手を出す理由があるのか?
普通なら、頼まれても断るところだろう。
「ははっ。頼まれて、野郎を抱くかよ。」
「何だよ、笑うな。」
「お前、俺のタイプなんだよ。」
少し照れくさそうに言う先生が、何だか可愛くて
危うく、自分の立場を忘れてしまいそうになる。
「・・・俺は、あんたのモノになる訳にはいかないんだよ。」
「俺にしとけよ。」
「だから、何でだよ。」
「俺は組とは無関係だし。」
「そりゃ、あんたは医者だから。」
いまいち話が噛み合わない事にイラついたのか。
先生が胸ポケットから煙草を取り出して、一本を咥えた。
「お前、さあ。組の奴らから、ケツ狙われてる自覚ある?」
ケツって・・・・。
そんな言い方ないだろと思いながら。
火の点いたばかりの煙草を先生から取り上げて、口に咥える。
「・・・ない・・・事もない。」
潤にしろ、相葉さんにしろ、翔さんにしろ
俺に対して、何らかの好意を持っているのには気付いていた。
実際、本気で俺をどうにかしようと思ってる訳じゃないだろうけど
翔さんに至っては、寝てる隙にキスしてくるからなあ。
「だから、さ。俺にしとけばいいんだって。」
先生が俺の口から煙草を取り戻し
紫煙を吐き出しながら、それが一番の解決策と言わんばかりのドヤ顔を浮かべる。
う~ん。
それはそれで、牽制になっていいかもしれないけど
何かすんなりと納得出来ないなあ。
「・・・じゃあ、さ。いつ来ても、診てくれる?」
「え?」
「何時でも、文句言わずに診てくれるんなら、考えてもいいよ。」
「・・・え~?」
「それが俺の条件。」
「・・・仕方ねぇなあ。」
先生は渋々といった感じで頷いて、俺を引き寄せた。
薬品と香水と体温の入り混じった独特の匂いに、胸がドキリと高鳴る。
自分でも何でこんな条件出したのか、分からないけど。
これから抱かれる言い訳には、十分だと思った。