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あれから一週間後

抜糸のために、先生の所に再びやって来た。


時刻は、午後8時
俺は潤の運転する車の中で、まだ迷っている。


前回あんな恥ずかしい事をされて
どうやって顔を合わせたらいいのか、分からない。


俺は、どうあがいても二代目だし
あの先生は、堅気の医者だし


あ~・・・・ちくしょ~。

何で、俺がこんなに悩まなきゃならないんだ。


「二代目。・・・行かないんですか?」


潤が訝しげに視線を送ってくる。

タイミングの悪い奴
痛い所を突かれて、つい不機嫌な声を出してしまった。


「うっせえな。行くよ。」

「・・すみません。」


ビビる潤に溜息を付いて、一万円札を渡す。


「終わったら連絡するから、それまで時間潰してろ。」

「はい。ありがとうございます。」


車から降り、診療所が入っているビルの一角を見上げる。


ああ。

最高に憂鬱だ。

・・・また、ヤラレんのだけは避けよう。


気の進まない足を何とか動かしてインターフォンを押すと、すぐに扉が開かれた。


「よぉ。」

「・・・どうも。」


どことなく嬉しそうな先生に軽く頭を下げると、そのまま診察室へ通された。


奥にあるベッドが目に入った途端
いろんな映像が頭の中に甦ってきて

恥ずかしくて、気まずくて

どうしようもなく居心地が悪くなる。


そんな俺の心中なんか、知る由もなく
手慣れた様子で処置をしながら、先生が質問してくる。


「熱、出なかったか?」

「・・・うん。薬、飲んだし。」

「そっか。」


ホッとしたように笑う先生は、医者の顔で


何だ。

俺が意識し過ぎてるだけなのか。


そう思った瞬間、ぐいっと顎を掴まれた。


「・・・んっ・・・!」


いつかの再現のごとく
先生の舌が俺の口内に入り込み、自由に動き回る。


くそ・・・。

この人、無駄にウマイんだよな。


痺れるような快感に、身体が支配されそうになったけど
力が抜け切ってしまう前に、何とか先生の身体を押し戻して
その顔を睨みつけた。


「・・・ツケは払ったハズだろ?」

「そうだっけ?」

「とぼけんなよ!」

「・・・いいな、その目。」


自惚れてる訳じゃないけど
通常ここまで凄みを利かせたら、相手は怯むのに

先生は全く動じる事なく、俺を見返してくる。


本当に・・・何者なんだろう。

そのまま、しばらく睨み合っているのか見つめ合っているのか分からないまま
お互いの目の奥を覗き込んで


根負けしたのは、俺の方だった。

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