A
何だか今日は家の中が騒がしい。
明け方帰ってくるハズのニノが帰ってこなかったり
普段はいない若頭の翔さんがウロウロと家の中を歩いていたり
一体、何が起きたんだろう。
そう思いながらも誰にも何も聞けず、俺はいつも通り食事の支度に追われていた。
「雅紀。俺、昼飯いらないから。」
朝食の後片付けをしていた時、台所に潤が現れた。
「あ、潤。おかえり。」
潤が帰ってきたって事は、ニノも帰ってきたのか。
「何かあった?」
翔さんに怒られたのか、傍から見ても潤は落ち込んでいる。
それに、ずいぶん疲れてるみたいだ。
「ん~・・・ちょっとな。」
気まずそうに、潤が言葉を濁す。
ま、仕方ないか。
俺はこの家で料理番をしているけど、組の人間じゃないから
余計な事を吹き込むなと、ニノに言われてるんだろう。
「サンドイッチ作っとくから、腹減ったらおいでよ。」
「うん。ありがとう。」
ホッとしたように微笑んで、潤は去っていった。
幼なじみのニノが二代目を継ぐ事になった時、俺も組に入ると決めた。
使いっぱしりでも鉄砲玉でも、何でもいい。
とにかく一緒にいなきゃって思ったんだ。
「だから、駄目だって。」
「お願いっ!俺、何でもするから。」
「無理でしょ、あんた。ヤクザなんて。」
「無理じゃないよ!」
一歩も引かない俺としばらく押し問答をして、ニノは深い溜息を付いた。
「・・・じゃ、料理番だけな。」
「うん!ありがとう!」
「・・・ったく、こんな道に引き込みたくなかったのに。」
ボソリと呟いて俺を見たニノの顔が、泣きそうなほど切なくて
親父さんの遺言だから仕方ないって、笑ってたけど
本当は二代目なんかになりたくなかったんだなって、痛いほど感じた。
あれから、何年経ったんだろう。
朝から晩まで料理を作って、掃除して、洗濯して
家政婦みたいな毎日だけど
ニノと同じ家に暮らせてるから、俺は結構幸せだ。