番外編3


「本当に辞めるのか?」

「個人の診療所なんて儲かんないぞ。」

勤めていた病院を辞める時、いろんな人に同じようなことを言われた。

「いいんだよ。」

返す言葉は決まって同じ。

胸の内なんて明かさない。

訳が分からないくらい忙しくて

何のために
こんな生活をしてるんだろうと
張り詰めていた糸が切れてしまった。

自宅兼診療所ができる場所を借りて
自分の好きなように生きるんだ。

そう思って
ようやく軌道に乗り始めたのが数年後。

基本的に誰であろうが、患者であれば診察する。

そんなスタンスでいたら、いつの間にか裏稼業の奴らが訪ねてくるようになっていた。


「先生、すまないなあ。」


頭を掻いて柔らかく話すこの人は、どこか小さな組の組長らしい。


「本当はちゃんとした病院に行った方がいいんだけど。」

「まあ、俺が行くと迷惑かけちまうから 。」

「ウチじゃ痛み止めしか出せないよ。」

「分かってるよ。」


大学病院で手術してもらえば、もう少し生きられるかもしれない。

何度告げても首を縦に振らなかった。


「親父さん、終わった?」


男がひょいと顔を覗かせる。
顔立ちの整った印象的な奴だ。


「ああ、今行くよ。」


父親の表情を作って、彼が席を立った。
息子らしき青年は俺にペコリと頭を下げて、彼に付き添う。

・・・いい関係なんだろうな。
二人の後ろ姿を見送って、伸びをする。


それで二人の姿が見納めになるなんて、その時は思ってもいなかった。



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