番外編-2
いつもの時間に迎えに行って
いつものように先生に睨まれながら、二代目を回収した。
あの先生もただ者じゃない気迫があるけど
遅くなって若頭の翔さんに怒られるのは勘弁願いたい。
俺の思考回路なんて全てお見通しな二代目は、苦笑しながらも大人しく車に乗ってくれた。
「事故渋滞してたんで、迂回して戻ります。」
「そうか。」
ずいぶん迂回路になるけど、あの渋滞につかまるよりはずっと早く着くはずだ。
朝の住宅街を通り抜けていると
「潤。窓を開けてくれないか。」
と、声をかけられた。
「あ、はい。」
珍しいなと思いながら、後部座席の窓を下ろすと
桜を散らしていた風が車の中に流れ込んだ。
「あ。」
自らの服についた桜の花びらを愛おしそうに眺める二代目は
何だか
俺の知っている二代目じゃないみたいで
こんな
こんな可愛い表情をする人が二代目なはずないじゃないか。
と思えるほどで
俺はしばらくバックミラーから目を離せなかった。
「・・潤。潤!」
「え、あ、はいっ!」
「携帯、鳴ってる。」
着信表示は、翔さんからで
俺は慌てて車を路肩に寄せた。
「いいよ。俺、出るよ。」
「え?」
驚くような素早さで、胸ポケットから携帯電話が抜き取られた。
「もしもし。うん。俺。」
「なんか渋滞でさ。うん。潤が迂回してくれてるから、そんなかかんないよ。」
「え?・・・あー、そう。分かった。このまま向かう。」
途中まで朗らかに喋っていた二代目のトーンが変わって
車内の温度が下がったように感じられた。
「・・・何かありました?」
恐る恐る声をかけると、ジロリと睨まれた。
「羽田へ向かえ。福岡に出張だとさ。」
「はい。」
福岡。
最近、系列の会社が別の会社と睨み合いをしていると聞いた。
若頭の翔さんと二代目は、よく顔を出している。
何か進展があったんだろうか。
「・・・。」
二代目は眉間に皺を寄せて、目を閉じている。
きっと
いろいろなパターンを想定して、考えているに違いない。
さっきまでの可愛い表情をしていた二代目と
今の難しい表情をしている二代目
一体、どっちが本来の姿なんだろう。
「潤。」
「はい。」
「俺は、俺だ。迷うんじゃねえよ。」
「えっ?」
何で
何も言ってないのに
驚きのあまり、言葉も出せないでいると
「ははっ。お前、考えてること、顔に出過ぎだから。」
煙草を咥えた二代目に笑われた。
でも
その笑顔がいつもと同じだったから
俺はちょっとホッとして
運転に集中することが出来た。
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