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二代目が自宅兼診療所である先生の家に入って、2時間が経った。
辺りはすっかり明るくなり、表の通りを通勤中のサラリーマン達が歩き始めている。
先に帰ってろと恫喝されて、その場は引いたけど
素直に帰れる訳がない。
こんなに時間がかかるなんて、よっぽど傷が酷いのかな。
どうしよう。
先生の所に行って、聞いても大丈夫だろうか。
・・・・・・・・。
しばらく逡巡して
俺は車を降り、再び先生の家へと向かった。
1度だけインターフォンを鳴らし、辛抱強く待つ。
「・・・何だ、まだいたのか。」
5分後、煙草を咥えた先生が顔を覗かせた。
この先生の事は、よく分からない。
以前から
組の人間に何かあった時は、世話になっていて
変わった人だけど、腕は確かだから
それが先生を知る人の評価だった。
「あ、あの、二代目の具合は・・・。」
「ん?・・・ああ。今、寝てるよ。」
「え?」
クイッと顎で奥を示され、恐る恐る部屋に足を踏み入れる。
診察室らしき扉を開けると、上半身裸の二代目がタオルケットを掛けられて眠っていた。
その右腕に巻かれた包帯が痛々しくて、ベッドの脇に跪く。
「すみません。俺のせいで・・・。」
誰にともなく呟いた俺の言葉に、先生が反応する。
「そんなに深い傷じゃないから、心配すんな。」
「本当っすか?」
「嘘ついて、どうする。・・・ちょっと縫っただけだよ。」
「・・・はあ~。」
良かった。
思わず、安堵の溜息が漏れる。
・・・あれ。
じゃ、二代目は何で寝てるんだろう?
首を傾げたその時
「・・・ん・・・。」
二代目がゆっくりと目を開いた。
「二代目!」
「・・・潤か。」
「はい。」
「・・・大丈夫だよ。」
寝起きの掠れた声が色気を含んでいて、ドキリとする。
よく見ると、首筋や脇腹にキスマークと思しき鬱血痕が残っている。
普段、女に痕を付けられるのは嫌がってた筈なのに
・・・変だな。
「俺のシャツ、貸してやるよ。」
二代目が身体を起こして、ボロボロになっているシャツを羽織ろうとしていた所。
先生が自分のシャツを投げて寄越した。
二人の視線が、一瞬絡み合い
微妙な空気が流れる。
「・・・借りとく。」
「身体、平気か?」
「・・・平気じゃねえよ。」
「ははっ。・・・だろうな。」
面白そうに笑っている先生と
怒ったような恥ずかしそうな表情で、先生を睨んでいる二代目。
何の話をしているのか、よく分からなかったけど
俺が話題に入っていけるような雰囲気ではなくて
少しムッとしたまま、二代目の着替えを手伝った。