番外編-1
「おい。床で寝んなよ。」
頭の上から、和の呆れたような声が降ってきた。
そうだ。
昨日、そのまま和をソファーで寝かせて
自分は床で寝たんだった。
「・・・今、何時?」
「7時。」
「あ~、もう迎えが来る時間か。」
軽く伸びをして煙草に火を点け、和が着替えてる様子を眺める。
スーツを着てネクタイを締めると、和の表情も引き締まる。
本当はスーツなんかより、普通のカジュアルな服の方が似合うと思うけど
俺の白衣と同じく、一種の仕事着なんだろう。
「・・・何?」
「や、何でもない。」
照れたように目を伏せる様が可愛くて、思わず抱きしめてキスをした。
「・・・んっ・・・。」
このまま、もう少しだけ和の甘い唇を味わっていたいけど
うるさい奴が下で待ってるしなあ。
俺の迷いを察したように、和が俺から離れた。
「じゃ、行くわ。」
「うん・・・あ、忘れてた。」
「え?」
和のネクタイを緩め、ワイシャツのボタンを外し
鎖骨の辺りに強く吸い付く。
「・・・ちょっ・・・ああっ・・・。」
「そんな声出されると、帰せなくなるって。」
「馬鹿。何やってんだよ。」
綺麗なキスマークの出来に満足して、和から離れる。
自分でも不思議だけど
跡を残しておくと、少しだけ安心するんだよな。
「・・・ま、虫避けみたいなもんか。」
「は?何だ、それ。」
首を傾げる和を無視して扉を開けると
顔を赤くした潤が立っていた。
あ~・・・聞いてたな、コイツ。
「下で待ってろって、言っただろ?」
「すみません・・・時間になってたので・・・。」
開いたワイシャツの隙間から目が離せない潤に向かって、和がジロリと凄んでみせる。
「何、見てんだよ?」
「すみません!」
「・・・くくくっ。」
途端に背筋を伸ばした潤が可笑しくて笑っていると
「あんたが余計な事するからだろ。」
と、軽く小突かれた。
二人を送り出し
ベランダで煙草を吸いながら外を眺めていると
和がビルの入口から出てくるのが見えた。
少し伸びた金髪が、朝日を反射してキラキラと輝く。
・・・綺麗だな。
そう思っていたら、ふいに振り向いて上を見た和と目が合った。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
はにかんだように微笑んでから、背中越しに右手を上げる和は
カッコ良くて
可愛くて
コイツがこんな風に笑える日が続けばいいなと、思った。