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「・・・・。」

「その時は、すぐに身を引くから、さ。」

「・・・・馬鹿だな。」


それまで黙っていた先生が、やっと口を開いた。


「そんな理由で俺がお前を手放す訳ないだろ。」


そんな理由か・・・。

人によっちゃ、結構な理由だと思うけど


返事に困っていると
先生がフワリと笑って、俺の目尻を舐めた。


そこから水滴が溢れる感覚に


あれ

俺、泣きそうだったのか


と、やっと気付いた。


涙をなぞるように、先生の唇が動き
そのまま、俺の唇に重なる。


「・・・ん。」


この一週間、何度も繰り返された甘い誘惑


舌を絡め取られて
吸われて

離されて

追いかけて

また捕まって

・・・その繰り返し。


ああ

キスだけで、どうにかなりそうだ。


腰骨の辺りがゾクゾクしてきて、立っていられなくなった時
インターフォンが鳴った。


「ちっ。」


思わず舌打ちをして、時計を見ると
ちょうど潤が迎えにくる時間になっていた。


「・・・相変わらず、タイミングの悪い奴。」


ボソリと呟いた先生が、ゆっくりした動作で身体を離す。


さっきまで触れ合っていた体温がなくなってしまうのが・・・少しだけ淋しい。


「・・・だから、そんな顔すんなって。」

「え?」


先生は困ったように頭をかいて
まだ鳴りつづけるインターフォンに文句を言いながら、玄関に向かった。


「うるせぇよ。」

「あ、すみません。さっさと連れ帰ってこいと言われまして。」

「ふん。」


軽く頭を下げてから俺を見つけた潤が、嬉しそうに目を細める。


「傷、すっかり良くなりましたね。」

「まあな。」


そんな大した傷じゃなかったし
という言葉を飲み込んで、荷物を渡す。


「じゃ、先生。ありがとう。」

「・・・。」


最後までふて腐れた表情で俺を見るこの人に、ため息が出る。


・・・仕方ねえなあ。


俺は玄関の棚に無造作に置かれている鍵を掴み、先生の目の前に翳した。


「これ、もらっていくから。」


何のモチーフか分からない青いキーホルダーのついているこの家の鍵

まあ、合い鍵くらい持ってるだろう。


先生は一瞬、目をパチクリした後


「潤。後ろ向いてろ。」


そう言って、最高に嬉しそうな顔で俺にキスをしてきた。




 fin
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