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「なあ。」
「・・・何だよ。」
「本当に、帰んのか?」
さっきから、何だかんだと俺にまとわりついてくる先生が可愛くて仕方ない。
潤からあと1時間で迎えに行くと連絡があって
それからずっとこうだ。
俺は緩みそうになる頬を押さえながら、わざとらしく溜息を吐いた。
「・・・一体、何回聞くんだよ。」
「・・・。」
「一週間も留守にしたんだし、帰るに決まってるだろ。」
冷たい言い方にムッとしたのか、先生が子供のように口を尖らせる。
あ~・・・面白い。
この一週間で、やっとこの人の扱い方が分かってきて
からかって遊ぶなんて事も出来るようになった。
一週間、ここで世話になったけど
日中、甘い雰囲気になることは、ほとんどなく
俺は本を読んだり、テレビを見たりしていたし
先生は2日間休診にしただけで、普通に仕事をしていた。
まあ、その分、夜は毎晩のように激しく求められたんだけど
「どこで、どういうスイッチが入ってんだか。」
「ん?何の話?」
煙草を咥えたまま首を傾げる先生を見て、思わず苦笑する。
いや~・・・何だろうな。
あの時の先生は、恐ろしいほどの色気を放っていて
もう、どうにでもしてくれって思う位なのに
「何でもない。独り言。」
傍をすり抜けようとした時
ぐいっと腕を捕まれ、引き寄せられた。
「こら、和。」
先生が顔をギリギリまで近付けてきて
優しい目で俺を睨んでくる。
「何だよ。」
「・・・・・・帰んなよ。」
低く囁かれたその台詞が本音なんだと、痛いほど分かる。
俺だって・・・・・・と思うけどさ。
帰らないなんて選択肢がないんだよな。
「ごめんね、先生。」
先生の背中に手を回し、肩に顔を埋めたまま喋る。
「俺は何があっても、あいつらを見捨てる事が出来ないから。」
「・・・。」
そう
そうなんだよ。
元々、二代目なんかになりたかった訳じゃないけど
冗談でも何でもなく、あいつら俺のために命かけちゃうからさ。
そんな奴らを見捨てる事なんて、出来る訳ないんだよな。
「だから、先生。・・・この先、俺の職業が邪魔になったら、言って?」