A


「次の方どうぞ。」


診察室から声をかけられ、ドキリとする。


おずおずと入っていくと


「今日はどうしました?」


白衣を雑に着こなした先生に、のんびりした声で聞かれた。


・・・この人が・・・・・・


翔さんからニノがしばらく戻らないと聞かされて
夜も寝れないほど心配した。

大した怪我もしてないし
組で世話になっている医者に預けてるだけだって言ってたけど

それって、入院ってことだよね?


「ええっと、相葉さん?」

「え?あ、はい。」

「はい、じゃなくて。どっか具合悪いの?」


年齢不詳の先生がくくっと笑いながら聞いてきた。

俺は慌てて考えていた症状を伝える。


「三日前から身体がだるくて、何だか熱っぽいんです。」

「ふうん。咳は?」

「・・・特に。」

「食欲は?」

「あんまりないかも。」


先生は俺に口を開けさせたり
胸に聴診器を当ててみたりしながら
ポツポツと短い質問をしてくる。


受付には肝っ玉母ちゃんみたいな人が一人いるだけだし
病院というよりは、診療所って感じだけど

本当に、ここにニノがいるのかなあ?


「相葉さん。何か心配ごとあるんじゃない?」

「・・・はい。」

「そのせいで、寝不足なんだと思うよ。」


その通りだ。

そんな事、自分でも分かっている。


それ以上何も言おうとしない先生に向かって、俺はいつの間にか話始めていた。


「・・世話になってる人が戻ってこないんです。俺、心配で心配で。」

「うん。」

「怪我してないかなとか、ちゃんと飯食ってるかなとか、気になって。」

「うん。大丈夫だよ。」

「へ?」

「ちょっと待ってな。」


柔らかく笑って奥へ消えた先生が、ニノを連れて戻ってきた。


あれ?

ニノの名前も出してないのに、どうして分かったんだろう。


「相葉さん?何してんの?」

「ニノ!」


頬に少し傷が残っている他は元気そうで、ホッとする。


良かった。

本当に良かった。


気が緩んだら涙腺も緩んだみたいで、涙が出てきた。


「心配かけて悪かったな。」

「うん。」

「・・・泣くなよ。」

「うん。分かってる。」


独特の甘さを含んだ声に、胸がキュンとなる。

涙を拭ってくれたニノの手に、そっと頬を擦り付けて
今となっては言葉に出来なくなってしまった気持ちを伝える。


好き。

大好き。


昔は何度でも言えた。

でも
その言葉がニノを困らせているのに気付いてからは、言えなくなった。

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