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「こら。無意識に人をたらしこむんじゃねえよ。」
先生がコツリと二代目の頭を小突いた。
「はあ?何のことだよ。」
ふいに、二代目の表情が崩れて柔らかくなる。
俺には先生の言っている意味が何となく分かったけど
それこそ無意識の二代目には分からなかったらしい。
「なあ?潤。」
肩を竦めた先生に同意を求められ、言葉に詰まった。
いや
このタイミングで俺に振られても困る。
「潤。このオジサンが何言ってんのか説明しろよ。」
ムッとしたような表情の二代目に、いつものクセで背筋が伸びる。
「・・・や、俺にはちょっと。」
「何でだよ。分かってんだろ?」
「いや、マジで勘弁して下さい。」
この人に惹かれる理由なんて、本人目の前にして喋れる訳ないっての。
「あはははっ。」
困っている俺の様子を見て、先生が腹を抱えて笑っている。
チクショ~。
きっと俺が二代目に惹かれているのを気付いてるんだろう。
案外、嫉妬深いんだな。
「和。もう、その辺にしとけよ。」
「だって。」
「後でじっくり教えてやっから、な?」
そう言って、先生は意味深に笑った。
「変な言い方すんな。ばか。」
二代目が耳まで真っ赤にして、先生の頭をパシリと叩く。
・・・・可愛い。
こんな二代目は、見たことがない。
・・・そうか。
先生の前だから、こんな表情になるのか。
何だかんだと言い合いを続けている二人を見て。
淋しいような
暖かいような
何とも言えない気持ちで胸がいっぱいになった。
「二日後に迎えに来ます。」
「うん。よろしく。」
玄関先まで見送ってくれた二人に頭を下げ、扉を閉める。
階段を下りていると、上から先生の声が降ってきた。
「おい!」
「・・・何ですか?」
忘れ物でもしたのかと思って見上げると、ビックリするほど不機嫌な声が返ってきた。
「櫻井さんに、邪魔すんなって伝えとけ。」
ははっ・・・気付いてたのか。
面白い。
何も考えていないように見えたんだけどな。
二代目とは違うギャップ。
この前みたいな、ここぞという場面では、誰よりも頼りになる人なんだろう。
敵に回すと厄介だなとも思う。
「・・・一応、伝えるだけ伝えます。」
そう答えると満足したように、先生の気配が消えた。