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二代目が女のマンションから出てきた所を襲われた時
俺は車でスタンバってたから、どうしようもなかった。
だけど
ちゃんと周辺を確認しとけば、こんな事にはならなかったのにって思う。
「二代目っ!」
車から転げ落ちそうになりながら、二代目の元へ駆け寄った。
その右腕に光る物が突き刺さっていて、血の気が引く。
「・・・俺を破門なんかにするからだ。」
掟を破って薬に手を出した馬鹿な奴が、危ない目つきで呟く。
・・・コイツか!
気が付いた時には
奴の首の後ろに回し蹴りを喰らわして、横腹を蹴り上げていた。
「ぐっ・・・。」
とりあえず、戦意を失うまで痛めつけてから本部に連れていくか
そう思っていたのに。
「・・・やめろ、潤。」
感情を押し殺したような低い声が聞こえ、我に返った。
見ると、二代目は顔を顰めながら
右腕に刺さった物を抜こうとしている。
ちょ・・・マジか。
抜いたら、血が・・・。
止める間もなく
光る物が姿を現し、真っ赤な血が流れ出した。
「何、抜いてんすか!」
俺は止血するため、スーツのポケットからハンカチを取り出した。
・・・頼む。
止まってくれ。
祈るような思いで、傷口を縛っていると
「ハンカチなんて、よく持ってたなあ。」
他人事のように、二代目が笑う。
もう、この人は・・・
自分の命に無頓着というか、何と言うか
望んでなった二代目じゃないからって
自分が組の人間にどれだけ慕われてんのか、分かってないのか?
「・・通報される前に、先生の所行くか。」
「はい。コイツ、どうします?」
蹲ったままの奴に目を向ける。
「・・・放っておけ。」
「いや、でも・・・。」
俺たちヤクザには、面子っていう面倒臭いものがある。
組のトップが襲われたのに、その犯人をただ解放する訳にはいかない。
「・・・ただ放っておくとは言ってねえよ。」
俺の考えが分かったかのように、二代目がゾッとするような冷酷な笑みを浮かべた。
そして
自分の右腕から抜いたばかりのまだ血の滴る刃物を、奴の手に握らせて
そのまま、振り下ろした。
「ぐあっ・・・!」
刃物は奴の太ももに突き刺さり、ヒキガエルの潰れたような声が辺りに響き渡った。
ああ、そうだ。
こういう人だった。
可愛い顔して
その中身は、冷静で残酷。
さっきの一連の動作には、何の迷いも躊躇いも感じなかった。
「・・・抜かなきゃ、死なねえよ。警察呼ぶなり、救急車呼ぶなり、好きにしろ。」
どっちを呼んだって、薬をやってる事はバレるだろうし
大体、先に手を出したのは自分だし
・・・どの選択肢も楽じゃないけど
まあ、それくらいの報いを受けて当然か。
「潤。行くぞ。先生の所へ車回せ。」
「はい!」
車に乗り込んだ時には、憐れな奴の事なんてすっかり忘れていた。