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「ちょっと様子見てこい。」


若頭の翔さんにそう言われて、断るなんて選択肢はないんだけど
・・・・気が進まない。

俺は二代目の着替えが入ったカバンを持って、診療所の前に立ち尽くしていた。


あの日

傍にいながら二代目を守れなかった自分の不甲斐なさに落ち込み
カタギのくせに二代目を助け出した先生を見直した。


二人がそういう関係なんだろうなってのは、薄々感じていたし。

それに割って入るような度胸も根性も俺にはない。


だけど
カタギとは住む世界が違うから
二代目は俺が守らなきゃいけない。


そう思ってたのに・・・・・なあ。


行けなかったと報告した時の翔さんの顔を思い浮かべ、諦めてインターホンを押す。

すると、程なくして扉が開かれた。


「よぉ。」


いつもより機嫌の良さそうな先生が、いつものように咥え煙草で顔を覗かせる。


「あの、すみません。二代目の着替えとか持ってきたんですけど。」

「ん?ああ。渡しとく。」


荷物をひょいっと取られて、そのまま扉を閉められそうになり
慌てて右足を差し込んだ。


「・・・痛ってえ。」

「ははっ。案外、素早いな。」


悪びれた風もなく、先生が俺を中へと招き入れる。


何だ。

からかわれたのか?


自分でも理由は良く分からないけど、別に嫌な気はしない。


「何やってんだ?」

「二代目!」


騒がしいなと、奥から二代目が現れた。


先生の物だろうか?

パーカーにスウェットというカジュアルな装いのせいで、ずいぶん幼く見える。


「傷は、どうですか?」

「ん?ああ。腫れはひいたし、平気だよ。」


顔の傷はまだ少し残っているけど、それ以外は元気そうだ。


「・・・俺のせいで、スミマセン。」


俺は深々と頭を下げた。


今回の件は、誰がどう見ても俺の落ち度だ。

いつもより厳重にガードしているつもりだったのに
二代目と一緒に攫われてしまった。

誰も俺を責めないけど、それが逆に辛かったりもする。


「まあ、もうちょっと考えて動くんだな。」

「・・・・。」

「お前に人を疑えと言うのは、嫌だからさ。」

「・・・・はい。」


ポンポンと俺の頭を撫でながら、話す二代目の声は優しくて
思わず涙が出そうになってしまった。


「結果的に向こうに貸しを作ったし、もう気にすんな?」

「・・・・はい。」


特に請求した訳ではないが
相手の組が相当な額の見舞金を寄越してきたらしい。

血の気の多い翔さんも、今回の件に関しては動くつもりはないみたいだ。


きっと裏で糸を引いているのは、この人だ。


素の彼は、ごく普通の青年で
それは、そう。
俺と大して変わらないハズなのに

組の看板を背負ってるからなのか
二代目をしている時の彼は、他の組長に引けを取らない位
冷静で
残酷で

頼りになる。


飴と鞭のように、優しさと残酷さを使い分けられて
惹かれない奴なんていないだろうなと思う。

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