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驚いた。

まさか翔さんからキスされるとは思わなかった。


寝てる間にキスされる事があるのには気付いてたんだけど
正面切って仕掛けてくるとは・・・。

しかも、それを先生に見られるなんて

あ~、最悪だ。

・・・何、言われるんだろ。


「言っとくけど、不意打ちだからね。」


言い訳がましいなと思いながらも、意を決して振り向く。


特に怒ってる風もなく
煙草の煙を吐き出して、先生が言う。


「・・・色っぽい顔、見せてんじゃねえよ。」

「は?そんな顔、してないっての。」

「してた。」


俺の腕を捕えた先生が翔さんに対抗するように、深いキスを仕掛けてくる。


「・・・っん・・・。」


同じ行為のはずなのに、まるで違う。

甘い刺激に自分の身体が悦んでいるのが分かる。


もっと

もっと欲しい。


欲望の火がつく前に、すっと身体が離された。


「・・・俺の方が上手いだろ?」


得意げに鼻を擦りながら、先生が言う。


・・・馬鹿だなあ。

何を比べてるんだろう。

比べ物にならないくらいの差があるのに
何となく認めるのが悔しいし、恥ずかしいし
照れくさいんだけど

まあ、今日は助けてもらったし
サービスしてやるか。


「上手いかどうかは分かんないけど。」

「けど?」

「あんたの方がイイに決まってるだろ。」

「本当に?」

「何回も言わせんな。馬鹿。」


パシリと腕を叩くと、先生が目尻を下げて笑う。

その子供みたいな笑顔に、心臓の音がどこか遠くで聞こえ出す。


・・・きっと
俺はこの人が好きなんだろう。

一連の騒動に巻き込みたくなくて、連絡を絶ってたけど
結局、巻き込んでしまった。


「・・・先生、さあ。」

「ん?」


すっかり上機嫌になって、俺のスーツを脱がそうとしている先生に聞いてみる。


「あんまり俺に深入りしない方がいいと思うよ?」

「・・・どういう意味?」


俺はどうあがいたって組の二代目だし
今回は事なきを得たけど

今後、どんな危険が降り懸かってくるのか分からない。


その事に、この人を巻き込んでしまうのが


・・・俺は怖い。


「あんたは、きっと自分で何とか出来る人だろうけど。」

「うん。」

「俺のせいで、何かあったらと思うと・・・。」

「和。」


言いかけた言葉は、先生の優しい声に遮られた。



 
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