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「・・・・あ~、もう。」

「ん?」


計算しつくされた上目遣いに、ドキリとしてしまう自分に呆れてしまう。


くそ・・・・。

ワザとだって分かってるのに
こんな子犬みたいなキラキラした目で見つめられると
何も言えなくなるんだよな。

自分の思い通りに事が運んで、すっかり満足している和を見ていると
何となく悔しくなったから

その顎を掴んで、唇を重ねてやった。


「・・・んっ・・・。」


俺を押し戻そうとしている腕を抑え
唇の隙間から舌を差し込む。


初めて味わう甘い舌に夢中になっていると


-----カチッ------


背後でライターの点火音が聞こえ、和の身体がビクリと強張った。


・・・先生が戻ってきたのか。


和の事を大事に想っていると俺に宣言したカタギの医者


どうやら
その想いは和に通じているらしい。


男の俺にされてるってのも、あるんだろうけど
コイツがキスシーンを見られた位で動揺するなんて、さ。


仕方なく唇を離すと、和が真っ赤な顔して俺を睨んでいる。


あ~、可愛い。


「・・・心配させた罰。」


珍しく言葉を失っている和の頭を小突いて、先生に向き直る。


壁にもたれかかるようにして煙草を吹かしている先生は、怒っている風でもなく
どこか浮世離れしていて、独特の空気を醸し出している。


・・・不思議な人だ。


カタギの医者には、とても見えない。

かと言って、ヤクザ者の匂いもしない。

でも
和を助け出したのは、間違いなくこの人なんだ。


癪だけど
この人になら、和を任せてもいいか。


「・・・和の事、よろしくお願いします。」


まるで嫁入り前の娘を預けるような気持ちで、俺は深々と頭を下げた。

 
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