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「何だ!?お前は!?」
蜂の巣をつついたような騒ぎと
映画みたいな立ち回りを見ながら
これは何かの間違いだと思った。
だって
カタギの医者がこんな場面で登場する理由が分からない。
何で、この場所が分かったんだろう。
何で、助けに来てくれたんだろう。
頭の中は、疑問だらけだ。
「二代目・・・あの人、何者っすか?」
俺の前にいた潤が呆然と呟く。
そんなの、俺の方が知りたいっての。
「・・・ただの医者だろ。」
「や、素人にあんな動き、出来ませんよ。」
惚れ惚れしているような口調にイラッとする。
まあ
俺もタダモンじゃないとは思ってたけどさ。
「馬鹿。見惚れてないで、さっさと加勢しろ。」
「えっ・・・あれ?」
縄を解いてやると、潤が驚いたように俺を見る。
「早く行けよ!」
「はいっ!」
弾かれたように立ち上がった潤を見ながら
手の平で握り締めていたライターをポケットに仕舞う。
正確には、車にいた時からずっと持っていた。
あまり人を疑う事が得意じゃない潤には言わなかったけど
どう考えても
あの立ち往生していた車は不自然だったからなあ。
俺がぼんやりと座り込んでいる間にも
喧嘩慣れしている潤の加勢もあって
見張りを含めて五人のチンピラは、ほぼ地面に倒れ込んでいた。
やっと終わったと安堵した時
倒れていたチンピラのリーダー格が、右手をジャンパーの内側に差し入れた。
「先生、後ろっ!」
叫んだ瞬間、光る物が先生をめがけて飛んでいった。
嫌な予感で頭の中がいっぱいになったけど
まるでスローモーションのように、先生はヒラリと身をかわして
行き先を失ったナイフは、ポトリと床に落ちた。
「・・・あっぶねえなあ。」
先生は呑気な声でそう言って、うずくまっているチンピラをガシガシと足蹴にしている。
ははっ。
この人の方が、よっぽどヤクザらしいや。
「そういや、伝言。おたくの若頭に破門状が出てるってよ。」
「・・・は?」
「組に詫び入れた方がいいんじゃねえの?」
自分達に命令をした若頭が組から切られたと知って
チンピラ達はそれぞれに逃げていった。