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一方通行の狭い道で立ち往生している車に声をかけようと運転席に回り込んだ瞬間
何か薬品のようなものを吹き付けられ、車に引きずり込まれた。
しまった!!
二代目がまだ車の中に・・・・
そう思っている最中に意識が途切れた。
「おい、起きろ!」
乱暴に肩を掴まれ、意識が覚醒する。
手足に力を入れても、上手く動かない。
どうやら、縛られているらしい。
目を開ける前に感覚を研ぎ澄まして、周りの状況を感じ取る。
ひんやりとした空気は、外と同じ位だけど
それにしては空気が流れないし、静か過ぎる。
きっと、どこかの倉庫に閉じ込められてるんだろう。
そうだ。
二代目は・・・
「・・・。」
目を開けて、右腕に触れる体温の主を確認して
とりあえず、ホッとした。
二代目も俺と同じ格好で、両手と両足を縛られている。
よかった。
まだ、生きてる。
俺が目を開けた気配を察したんだろう。
こっちを見た二代目と、一瞬視線が絡んだ。
俺の中身を見透かすようないつもの視線に、ふっと心が落ち着いた。
この人がいつも通りなら、まだ何とかなるってことだ。
周りに見えているチンピラは、三人。
表に後二人位は、いるだろう。
その内の一人が二代目に向かって、話し始めた。
「お前らの組に、損害賠償を要求している。」
「・・・。」
「若頭の女を逃がされたんだ。金で解決してもらって、嬉しいだろ?」
チンピラの言葉に疑問を感じたけど
二代目を差し置いて、俺が喋る訳にはいかない。
「・・・いくら要求してるんだ?」
「一億。」
一億!?
心の中で叫んだ。
一億なんて・・・コイツら、馬鹿じゃないのか?
「ウチの櫻井は、そんな金出さないだろうな。」
二代目はクスリと笑ったけど
あの人なら二代目を助けるためにどんな事でもするだろうと、俺は思った。